日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 岩石・鉱物・資源

2023年5月26日(金) 15:30 〜 16:45 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)、座長:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)

15:30 〜 15:45

[SCG48-12] 佐賀県加部島の東松浦玄武岩中の晶洞に産する淡青色鉱物について

*木尾 颯月1江島 輝美1昆 慶明2 (1.国立大学法人 信州大学、2.国立研究開発法人 産業技術総合研究所)


キーワード:加部島、銅、セピオライト、アルカリ玄武岩

佐賀県呼子町の加部島には東松浦玄武岩と呼ばれるアルカリ玄武岩が広く分布する(小林ほか,1955; Nakamura et al.,1986)。加部島に分布する東松浦玄武岩であるアルカリ玄武岩中の晶洞において,淡青色を呈する鉱物(以下,淡青色鉱物)が産出した。東松浦玄武岩中の晶洞鉱物については,石橋(1974)にて報告されているが,淡青色を呈する鉱物については報告されていない。したがって,本研究では淡青色鉱物について記載および組成分析を行うことで,鉱物種と呈色要因を明らかにすることを目的に研究を行った。なお,鉱物組成の定量分析には電界放出形電子プローブマイクロアナライザを用い,微量元素の測定にはレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を用いた。
淡青色鉱物が産するアルカリ玄武岩は,青灰色で緻密な岩石であり,岩石中には直径最大5 cm程度の楕円形の晶洞が存在する。また,アルカリ玄武岩中には,マントルや地殻由来の捕獲岩が含まれる。斑晶は100 μm以下のかんらん石および斜長石からなり,基質は主に斜長石,鉄チタン酸化物である。また,マントル由来の捕獲岩,捕獲結晶である石英や単斜輝石が見られ,まれに1 μm程度の黄銅鉱や離溶組織を有するクロム鉄鉱が存在する。
アルカリ玄武岩の晶洞鉱物としては,本研究対象である淡青色鉱物,鉄チタン酸化物,方解石,およびマンガン酸化物が認められる。淡青色鉱物は長径10–20 μmの微細な球状をしており,鉱物表面に0.5 μm以下の微細な隙間を多数有する海綿状組織が存在する。また,淡青色鉱物と同様の産状と組織を持つ白色鉱物も認められる。淡青色鉱物の産状は放射状であり,母岩や他の鉱物を覆うように産出する。主成分元素および微量元素の定量分析の結果,主成分元素としてはSiO2が46.89 wt.%,MgOが18.70 wt.%,Al2O3が5.62 wt.%,微量に含まれる遷移金属元素としてはMnが0.403 wt.%,Fe3+が0.392 wt.%,Cuが0.145 wt.%,Tiが0.036 wt.%,Crが0.012 wt.%,Niが0.010 wt.%,Coが0.001 wt.%,Vが0.001 wt.%それぞれ検出された。淡青色鉱物の化学式は,(Mg2.285Al0.390Ca0.100K0.060Fe0.032Na0.025) Σ2.892(Si3.847Al0.153) Σ4.000O10(OH)2となり,粘土鉱物の理想式であるM2–3(Si, Al)4O10(OH)2の範囲に含まれる。また,この組成は石橋(1974)において東松浦玄武岩に新産例として報告された粘土鉱物であるβ–セピオライトの化学組成に類似する。
淡青色鉱物から検出された遷移金属元素のうち,粘土鉱物に含まれることで青色を呈する可能性がある元素はCoとCuである。一般的にセピオライトが青色を呈する場合にはCoが含まれることが報告されているが(Zhang et al.,2018),淡青色鉱物からCoは0.001 wt.%しか検出されず,呈色要因としては含有量が少ない。一方,Cuは淡青色鉱物に0.145 wt.%含まれる。以上より,遷移金属元素であるCuが淡青色鉱物の青色を呈色する要因であると考察した。
石橋(1974)によって東松浦玄武岩中には白色~淡緑色を呈するβ–セピオライトの産出が報告されているが,淡青色のものは報告されていない。なぜ加部島では淡青色を呈するセピオライトが産するのかについては,以下の地質的背景と母岩の岩石的特徴が理由として考えられる。淡青色鉱物の母岩であるアルカリ玄武岩にはマントル由来の捕獲岩が多く産する(江島ほか,2022)。また,アルカリ玄武岩中にはCuを取り込むホストとなるかんらん石斑晶や硫化鉱物が微細で量も少ない。したがって,捕獲岩等から供給されたCuは,それを取り込む鉱物がアルカリ玄武岩中には少なかったため全ては取り込まれず,流体に運ばれて晶洞に濃集したと考えられる。これにより加部島に産するセピオライトは東松浦玄武岩から産する他のセピオライトとは異なり青色を呈するようになったと考察される。