15:45 〜 16:00
[SCG48-13] 高温-超高温変成岩中のざくろ石に包有された石英包有物の残留圧力
キーワード:石英ラマン圧力計、高温型石英、ざくろ石、残留圧力、高温-超高温変成岩
変成作用時に成長したざくろ石の斑状変晶中に包有された石英包有物は残留圧力を保持している.石英包有物が保持している残留圧力は,ラマン分光法を用いてピークシフト量から算出することが可能であり,計測された残留圧力値から変成作用時の温度圧力条件を制約する手法が開発されている(石英ラマン圧力計:e.g., Enami et al. 2007; Kouketsu et al., 2014).これらの手法は低温型石英(α-quartz)の安定領域に限定されており,高温条件下で高温型石英(β-quartz)に相転移した変成岩への適用例はまだ報告されていない.本研究では,高温型石英の安定領域下で成長した高温-超高温変成岩中に含まれるざくろ石斑状変晶中の石英包有物に焦点を当て,低温型石英と同様に石英ラマン圧力計の適用が可能であるかを検証した.
分析対象として,柳井領家変成帯Garnet-Cordierite zoneで採取された泥質片岩(領家帯Grt-Crd schist)と,東南極Rundvågshettaで採取されたGarnet-Sillimanite 片麻岩(東南極Grt-Sill gneiss)を分析した.先行研究において,柳井領家変成帯のGarnet-Cordierite zoneは0.47±0.1 GPa/852±35℃(Ikeda 2004),東南極RundvågshettaのGarnet-Sillimanite 片麻岩は1.40 GPa±0.1 GPa/1040℃(Kawasaki et al., 2010)の変成条件が見積もられており,どちらも高温型石英の安定領域である.ざくろ石中に含まれる石英包有物はざくろ石の結晶系を反映した負晶の形態を示す.領家帯と東南極の試料中に含まれる石英包有物のラマンスペクトルはいずれも低波数側にピークシフトし,残留圧力値は領家帯Grt-Crd schistが-0.3 GPa, 東南極Grt-Sill gneissが-0.7 GPaと両者とも引張応力であることを示す負の値を示した.石英とざくろ石の状態方程式を用いて残留圧力値を理論的に計算するGUIソフトウェアEoSFit-Pinc(Angel et al, 2017)を使用し,高温型石英の安定領域まで拡張した数値計算を行ったところ,領家帯Grt-Crd schistの変成条件下では-0.6 GPa,東南極Grt-Sill gneissの変成条件下では-0.3 GPaの残留圧力値が算出され,理論計算と計測結果と整合的ではないことが明らかになった.
理論計算と計測結果の不一致について解釈するために,高温領域におけるざくろ石の塑性変形について検証した.一般的にざくろ石は700–800℃以上の高温領域において塑性変形することが知られている(e.g., Storey & Prior, 2005).理論計算ではホストのざくろ石と包有物の石英はそれぞれ弾性変形することを仮定しているが,高温領域において,ホストのざくろ石が塑性変形する場合を考慮すると,温度上昇によって膨張した石英包有物に押されてホストのざくろ石が押し広げられ,残留圧力が保持されない(リセットされる)可能性が示唆される.この場合,ざくろ石が塑性変形から弾性変形に遷移する700℃付近の温度条件から残留圧力の記録が開始されると解釈される.計測された残留圧力値を用いて,700℃の温度条件における変成圧力条件を計算すると,領家帯Grt-Crd schistは0.6 GPa/700℃ 東南極Grt-Sill gneissは0.4 GPa/700℃の変成圧力を経験したと算出された.東南極においては,1.4 GPa/>1000℃のピーク変成温度条件を経験した後,上昇時の後退変成作用において0.4 GPa/700℃の経路を通過した,という解釈は妥当であると考えられる.一方,領家帯はピーク変成作用時が0.47 GPa/852℃であり,その後の後退変成作用時に0.6 GPaに圧力が上昇したとする経路は整合的でないように思われる.もう一つの解釈方法として,領家帯においては,累進変成作用時に石英がトラップされたのち,ざくろ石が塑性変形するピーク変成条件下での加熱時間が短かったためざくろ石は十分に塑性変形をせず,残留圧力値が保持されたまま地表に上昇してきたと考えられる.これは,領家帯花崗岩の冷却速度が高温領域において速かった(>40℃/myr)事と整合的である(Okudaira et al., 2001).上記の結果から,高温-超高温変成岩では,ざくろ石の塑性変形や加熱時間について考慮する必要があり,石英ラマン圧力計を用いて制約された変成条件は必ずしもピークの変成条件を反映しているわけではない事が示唆された.
分析対象として,柳井領家変成帯Garnet-Cordierite zoneで採取された泥質片岩(領家帯Grt-Crd schist)と,東南極Rundvågshettaで採取されたGarnet-Sillimanite 片麻岩(東南極Grt-Sill gneiss)を分析した.先行研究において,柳井領家変成帯のGarnet-Cordierite zoneは0.47±0.1 GPa/852±35℃(Ikeda 2004),東南極RundvågshettaのGarnet-Sillimanite 片麻岩は1.40 GPa±0.1 GPa/1040℃(Kawasaki et al., 2010)の変成条件が見積もられており,どちらも高温型石英の安定領域である.ざくろ石中に含まれる石英包有物はざくろ石の結晶系を反映した負晶の形態を示す.領家帯と東南極の試料中に含まれる石英包有物のラマンスペクトルはいずれも低波数側にピークシフトし,残留圧力値は領家帯Grt-Crd schistが-0.3 GPa, 東南極Grt-Sill gneissが-0.7 GPaと両者とも引張応力であることを示す負の値を示した.石英とざくろ石の状態方程式を用いて残留圧力値を理論的に計算するGUIソフトウェアEoSFit-Pinc(Angel et al, 2017)を使用し,高温型石英の安定領域まで拡張した数値計算を行ったところ,領家帯Grt-Crd schistの変成条件下では-0.6 GPa,東南極Grt-Sill gneissの変成条件下では-0.3 GPaの残留圧力値が算出され,理論計算と計測結果と整合的ではないことが明らかになった.
理論計算と計測結果の不一致について解釈するために,高温領域におけるざくろ石の塑性変形について検証した.一般的にざくろ石は700–800℃以上の高温領域において塑性変形することが知られている(e.g., Storey & Prior, 2005).理論計算ではホストのざくろ石と包有物の石英はそれぞれ弾性変形することを仮定しているが,高温領域において,ホストのざくろ石が塑性変形する場合を考慮すると,温度上昇によって膨張した石英包有物に押されてホストのざくろ石が押し広げられ,残留圧力が保持されない(リセットされる)可能性が示唆される.この場合,ざくろ石が塑性変形から弾性変形に遷移する700℃付近の温度条件から残留圧力の記録が開始されると解釈される.計測された残留圧力値を用いて,700℃の温度条件における変成圧力条件を計算すると,領家帯Grt-Crd schistは0.6 GPa/700℃ 東南極Grt-Sill gneissは0.4 GPa/700℃の変成圧力を経験したと算出された.東南極においては,1.4 GPa/>1000℃のピーク変成温度条件を経験した後,上昇時の後退変成作用において0.4 GPa/700℃の経路を通過した,という解釈は妥当であると考えられる.一方,領家帯はピーク変成作用時が0.47 GPa/852℃であり,その後の後退変成作用時に0.6 GPaに圧力が上昇したとする経路は整合的でないように思われる.もう一つの解釈方法として,領家帯においては,累進変成作用時に石英がトラップされたのち,ざくろ石が塑性変形するピーク変成条件下での加熱時間が短かったためざくろ石は十分に塑性変形をせず,残留圧力値が保持されたまま地表に上昇してきたと考えられる.これは,領家帯花崗岩の冷却速度が高温領域において速かった(>40℃/myr)事と整合的である(Okudaira et al., 2001).上記の結果から,高温-超高温変成岩では,ざくろ石の塑性変形や加熱時間について考慮する必要があり,石英ラマン圧力計を用いて制約された変成条件は必ずしもピークの変成条件を反映しているわけではない事が示唆された.