日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 岩石・鉱物・資源

2023年5月25日(木) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (4) (オンラインポスター)

コンビーナ:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/26 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[SCG48-P08] 伊豆衝突帯甲斐駒ヶ岳岩体の固結圧力再検討:ジルコンメルト包有物地質圧力計の実用化にむけて

*谷脇 由華1齊藤 哲1 (1.愛媛大学大学院理工学研究科)


キーワード:ジルコン、メルト包有物、地質圧力計、花崗岩類、甲斐駒ヶ岳岩体

1.はじめに   
 花崗岩質マグマの固結深度は、造山帯の構造発達史から個々の花崗岩体のマグマ過程まで、広い範囲にわたる地質現象の理解に欠かせない基本情報である。花崗岩体に記録された圧力情報を得るために角閃石Al地質圧力計が広く用いられているが、角閃石を含まない花崗岩類には適用できない問題がある。そこでTaniwaki et al. (under review)では、花崗岩類に普遍的に含まれる鉱物であるジルコンのメルト包有物組成を用いた圧力検討法を提案した。メルト組成に基づく圧力の見積もりには、Blundy and Cashman (2001, CMP)によるAn成分の影響を考慮したQ―Or―Ab―H2O系相平衡図への投影や、熱力学的結晶作用シミュレーションによるRhyolite-MELTS地質圧力計(Gualda et al., 2014, CMP)が広く利用されている。一方で、これらの手法はメルトのAn成分の影響を過小評価しており、Caに富むメルト組成については圧力が低く見積もられてしまうという指摘がある(Wilke et al., 2017, J Pet)。そこで本研究では、ジルコンメルト包有物地質圧力計の実用化に向け、中新世甲斐駒ヶ岳岩体を対象に、メルト組成を用いた圧力検討および当岩体について既報の角閃石圧力計の結果との比較検討をおこなった。

2.実験試料・実験手法   
 本研究は、伊豆衝突帯に分布する甲斐駒ヶ岳岩体をジルコンメルト包有物地質圧力計の検討対象とした。当岩体については、240〜220 MPaの固結圧力が角閃石Al地質圧力計から得られており(Watanabe et al., 2020, JMPS)、この圧力はSueoka et al. (2017, JGR)によって報告された熱年代学的手法から見積もられた地殻削剥量と調和的である。
 実験試料は石英・斜長石・カリ長石・黒雲母・普通角閃石から構成される角閃石黒雲母花崗閃緑岩であり、副成分鉱物としてジルコン・燐灰石・磁鉄鉱・イルメナイト・褐簾石を含む。偏光顕微鏡観察からジルコンは主成分鉱物の粒間や、黒雲母の周縁部に包有されている産状を示す。本試料からジルコンを分離し、内部構造をSEM-EDSにより観察したところ、微細な石英・長石類と空隙を含む不定形の多相包有物(メルト包有物)が認められた。メルト包有物の均質化実験はピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いて行った。実験圧力を0.3 GPaに設定し、まずメルト包有物を十分に均質化させるために1000℃まで加熱して 1時間保持した後、 780℃で24時間保持した。実験後の試料は室温まで急冷させ、SEM-EDSで観察・組成分析をおこなった。

3.結果   
 EDS分析から、メルト包有物は花崗岩質の組成を持ち、ジルコンを分離した試料の全岩化学組成(68 wt % SiO2)よりSiO2含有量が高い(70〜83 wt %)。ハーカー図上では、メルト包有物の組成は岩体の全岩化学組成に比べてSiO2含有量の高いところに位置する。さらに、メルト包有物の含水量を下司ほか(2017)に従いEDS分析値から検討したところ、0.3~10.1 wt%の含水量が見積もられた。

4.考察   
 Taniwaki et al. (under review)は、中新世御内花崗岩質岩体のジルコンメルト包有物について、全岩化学組成トレンドと異なる組成を持つものはメルトともにアルカリ長石や石英などの微細結晶を捕獲した可能性を指摘した。本研究においても同様にメルト組成を検討したところ、8つのメルト包有物分析値のうち、5つがメルト組成を代表していると考えられる。以下の議論ではこの5つの組成を用いる。甲斐駒ヶ岳岩体のメルト包有物組成および含水量を用いて圧力を検討したところ、ノルムQz-Ab-Or圧力計からは100 MPa以下、Rhyolite-MELTS圧力計からは76±34 MPaの圧力がそれぞれ見積もられた。これらのメルト組成から見積もられた圧力は、当岩体の角閃石Al地質圧力計の結果よりも有意に低い。
 この圧力の不一致について検討するため、花崗閃緑岩〜トーナル岩を出発物質とした既報の溶融実験のメルト組成について、上記2つの手法でメルト組成から得られる圧力と、実験圧力とを比較した。その結果、メルト組成から得られる圧力は両者とも実験圧力より有意に低い傾向があり、Wilke et al. (2017, J Pet)の指摘に従うとAn成分の過小評価がその理由と考えられる。これらの検討結果から、ジルコンメルト包有物地質圧力計の実用化のためには、An成分に富む試料を対象とする場合、上記2つの手法による算出圧力に対しては何らかの補正を行う必要があるものと考えられる。