15:30 〜 17:00
[SCG48-P10] 山口県屋代島に産する白亜紀花崗岩類の岩石記載と含水量見積もり
1.はじめに
マグマ中の水はマグマを物理的・化学的に多様化させるため(栗谷, 2007, 地学雑誌), マグマの挙動や火山活動を理解するうえで最も基本的な情報である(下司ほか, 2017, 火山). 本研究では深成岩を形成したマグマの含水量を制約する手法の確立を目指し, 山口県屋代島に産する白亜紀花崗岩類のジルコンメルト包有物について, 高温高圧発生装置を用いた均質化実験とSEM-EDSを用いた含水量の見積もりを行った. さらに得られたメルト組成と含水量から, メルトがジルコンに捕獲された時点の圧力条件の解析を試みた. 屋代島に産する白亜紀花崗岩類は, 西部に蒲野花崗閃緑岩, 東部に東和花崗閃緑岩が分布し, それぞれの主岩相は黒雲母花崗閃緑岩(池田ほか, 2019, 地質学雑誌)と黒雲母花崗岩(児玉ほか, 2021, 岩石鉱物科学)である.
2.研究手法・実験試料
本研究では野外調査と室内実験を行った. 野外調査では産状観察と試料採集を行った. 室内実験として薄片作成, 偏光顕微鏡観察, 全岩化学組成分析(16試料), ピストンシリンダー型高圧発生装置を用いたメルト包有物の均質化実験(1試料), SEM-EDSを用いたメルト包有物の観察・分析を行った.
採集した試料のうち, 最も全岩Zr含有量の高い花崗岩試料を含水量見積もりの研究対象とした. 本試料は蒲野花崗閃緑岩であり, 主成分鉱物として石英, 斜長石, 黒雲母, 少量のカリ長石を, 副成分鉱物としてジルコン, 燐灰石, 不透明鉱物を含む. 分離したジルコンをSEM-EDSで観察したところ, 微細な石英, 斜長石, カリ長石および空隙からなる多相包有物が認められた.
分離したジルコン試料をNaClとともに白金カプセルに封入し, ピストンシリンダー型高温高圧発生装置を用いて0.3 GPaで均質化実験を行った. 900℃まで加熱して4時間30分保持し, 室温まで急冷させた. その後, 回収したジルコン試料をエポキシ樹脂でマウントし, 鏡面研磨を行い, 炭素蒸着後, SEM-EDSで観察・分析を行った.
3.結果
メルト包有物の含水量を, 下司ほか(2017, 火山)に従いEDS分析値から見積もったところ, 4.2〜9.5 wt%の含水量が得られ, 花崗岩試料の構造水含有量(1 wt%程度)と比べて有意に高い. また, メルト包有物のSiO2含有量は76〜79 wt%で, ジルコンを分離した試料の全岩組成(72 wt%)より高い. メルト包有物のAl2O3含有量はSiO2と負の相関があり, CaO, Na2O, K2O含有量についてはSiO2と相関は認められない.
4.考察
花崗岩が変成岩に調和的に貫入している産状や, それらの境界部でミグマタイト状を呈している産状は, 蒲野花崗閃緑岩が比較的深所で固結したことを示唆する(周藤・小山内, 2002, 共立出版). また, 主要鉱物の晶出順序から含水量が3.3 wt%以上のマグマから固結したものと推定でき(Sakuyama, 1979, EPSL), 本研究での含水量見積り(4.2~9.5 wt%)と調和的である. メルト包有物の主要元素組成と含水量を用いた圧力検討では, DERP地質圧力計(Wilke et al., 2017, J Pet)とRhyolite-MELTS地質圧力計(Gualda et al., 2014, CMP)からそれぞれ403~144 MPa, 283~122 MPaの圧力が得られた. これらの広い圧力範囲は, メルトが様々な圧力で捕獲された可能性があるが, 薄片観察では, ジルコンは主成分鉱物の縁に包有されるものと主成分鉱物粒間に見られるものとがあり、産状が多様である. また, 見積もった含水量と花崗岩質メルトの飽和含水量 (Holtz et al., 1995, Am Min)から制約される圧力の下限はおよそ400〜125 MPaであり, 上記の圧力とはおおよそ調和的であり, 含水量の観点からもメルトが様々な圧力で捕獲されたことが示唆される.
5.まとめ
本研究により, ジルコンメルト包有物の均質化実験とSEM-EDSを用いた組成分析により, 深成岩を形成したマグマのメルト組成と含水量を見積もることができた. ただし, 本研究で得られた含水量は簡易的な定量方法に基づくものであり, メルトが二酸化炭素を多く含む場合は含水量が過剰に見積もられてしまう(下司ほか, 2017, 火山). メルト組成を用いた地質圧力計で得られる圧力の評価に飽和含水量からの制約が有効(Wilke et al., 2017, J Pet)であることからも, 今後FT-IRやSIMSなど他の方法を用いて含水量の定量分析を行い, 本研究で見積もられた含水量の検証を行う必要がある.
マグマ中の水はマグマを物理的・化学的に多様化させるため(栗谷, 2007, 地学雑誌), マグマの挙動や火山活動を理解するうえで最も基本的な情報である(下司ほか, 2017, 火山). 本研究では深成岩を形成したマグマの含水量を制約する手法の確立を目指し, 山口県屋代島に産する白亜紀花崗岩類のジルコンメルト包有物について, 高温高圧発生装置を用いた均質化実験とSEM-EDSを用いた含水量の見積もりを行った. さらに得られたメルト組成と含水量から, メルトがジルコンに捕獲された時点の圧力条件の解析を試みた. 屋代島に産する白亜紀花崗岩類は, 西部に蒲野花崗閃緑岩, 東部に東和花崗閃緑岩が分布し, それぞれの主岩相は黒雲母花崗閃緑岩(池田ほか, 2019, 地質学雑誌)と黒雲母花崗岩(児玉ほか, 2021, 岩石鉱物科学)である.
2.研究手法・実験試料
本研究では野外調査と室内実験を行った. 野外調査では産状観察と試料採集を行った. 室内実験として薄片作成, 偏光顕微鏡観察, 全岩化学組成分析(16試料), ピストンシリンダー型高圧発生装置を用いたメルト包有物の均質化実験(1試料), SEM-EDSを用いたメルト包有物の観察・分析を行った.
採集した試料のうち, 最も全岩Zr含有量の高い花崗岩試料を含水量見積もりの研究対象とした. 本試料は蒲野花崗閃緑岩であり, 主成分鉱物として石英, 斜長石, 黒雲母, 少量のカリ長石を, 副成分鉱物としてジルコン, 燐灰石, 不透明鉱物を含む. 分離したジルコンをSEM-EDSで観察したところ, 微細な石英, 斜長石, カリ長石および空隙からなる多相包有物が認められた.
分離したジルコン試料をNaClとともに白金カプセルに封入し, ピストンシリンダー型高温高圧発生装置を用いて0.3 GPaで均質化実験を行った. 900℃まで加熱して4時間30分保持し, 室温まで急冷させた. その後, 回収したジルコン試料をエポキシ樹脂でマウントし, 鏡面研磨を行い, 炭素蒸着後, SEM-EDSで観察・分析を行った.
3.結果
メルト包有物の含水量を, 下司ほか(2017, 火山)に従いEDS分析値から見積もったところ, 4.2〜9.5 wt%の含水量が得られ, 花崗岩試料の構造水含有量(1 wt%程度)と比べて有意に高い. また, メルト包有物のSiO2含有量は76〜79 wt%で, ジルコンを分離した試料の全岩組成(72 wt%)より高い. メルト包有物のAl2O3含有量はSiO2と負の相関があり, CaO, Na2O, K2O含有量についてはSiO2と相関は認められない.
4.考察
花崗岩が変成岩に調和的に貫入している産状や, それらの境界部でミグマタイト状を呈している産状は, 蒲野花崗閃緑岩が比較的深所で固結したことを示唆する(周藤・小山内, 2002, 共立出版). また, 主要鉱物の晶出順序から含水量が3.3 wt%以上のマグマから固結したものと推定でき(Sakuyama, 1979, EPSL), 本研究での含水量見積り(4.2~9.5 wt%)と調和的である. メルト包有物の主要元素組成と含水量を用いた圧力検討では, DERP地質圧力計(Wilke et al., 2017, J Pet)とRhyolite-MELTS地質圧力計(Gualda et al., 2014, CMP)からそれぞれ403~144 MPa, 283~122 MPaの圧力が得られた. これらの広い圧力範囲は, メルトが様々な圧力で捕獲された可能性があるが, 薄片観察では, ジルコンは主成分鉱物の縁に包有されるものと主成分鉱物粒間に見られるものとがあり、産状が多様である. また, 見積もった含水量と花崗岩質メルトの飽和含水量 (Holtz et al., 1995, Am Min)から制約される圧力の下限はおよそ400〜125 MPaであり, 上記の圧力とはおおよそ調和的であり, 含水量の観点からもメルトが様々な圧力で捕獲されたことが示唆される.
5.まとめ
本研究により, ジルコンメルト包有物の均質化実験とSEM-EDSを用いた組成分析により, 深成岩を形成したマグマのメルト組成と含水量を見積もることができた. ただし, 本研究で得られた含水量は簡易的な定量方法に基づくものであり, メルトが二酸化炭素を多く含む場合は含水量が過剰に見積もられてしまう(下司ほか, 2017, 火山). メルト組成を用いた地質圧力計で得られる圧力の評価に飽和含水量からの制約が有効(Wilke et al., 2017, J Pet)であることからも, 今後FT-IRやSIMSなど他の方法を用いて含水量の定量分析を行い, 本研究で見積もられた含水量の検証を行う必要がある.