日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG50] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2023年5月24日(水) 09:00 〜 10:30 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田阪 美樹(静岡大学 )、東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

10:00 〜 10:15

[SCG50-05] 室内変形実験から観察される含水鉱物の脱水弱化と脆性化と沈み込み帯で発生する多様なすべり挙動との関連

*岡崎 啓史1,2、Hirth Greg3 (1.広島大学、2.海洋研究開発機構高知コア研究所、3.ブラウン大学)

キーワード:含水鉱物、蛇紋石、摩擦、地震、沈み込み帯

含水鉱物の摩擦挙動は、脱水反応中に劇的に変化する。例えば、ガス圧式高温高圧変形試験機を用いた熱水条件下での摩擦実験によると、含水マントル物質であるアンチゴライト蛇紋岩は安定領域内では速度強化の挙動を示す。一方、安定領域外の脱水条件下では、速度弱化挙動が観察される。また、アンチゴライトの安定限界に近い温度では、通常のスティックスリップよりも長い継続時間と小さな応力降下を持つスロースティックスリップが観測される。

近年のGriggs型やD-DIA型などの固体圧装置を用いたマントルに相当する圧力条件での高圧変形実験では、安定領域内においてもアンチゴライト蛇紋岩中に変形が局所化することが報告されている。また、アンチゴライトの昇温変形実験では、脱水反応時に間隙水圧が上昇し、変形集中と大きな弱化が観察された。しかし、脱水時の弱化に伴う応力効果はゆっくりでありアコースティックエミッションを伴わない安定すべりであることがわかった。脱水反応時の弱化速度は、昇温速度とひずみ速度で表される非時間依存のパラメーターによって支配されることがわかっている。

断層の安定性とすべり挙動は、系の有効スティッフネスと、摩擦特性と断層帯の有効垂直応力から計算される臨界スティッフネスに依存する。固体圧変形装置(Griggs型やD-DIA型など)の有効スティッフネス(>104MPa/mm)は、ガス圧装置(〜102 MPa/mm)や天然の断層系(<101 MPa/mm)よりも桁で大きい。実験室、特に固体圧装置と天然断層との有効スティッフネスの大きな違いは、実験室と天然の断層とでの脱水時の蛇紋岩のすべり挙動の違いを引き起こしているのかもしれない。

脱水反応に伴う間隙水圧の上昇は有効圧を減少させることによりせん断応力を減少させるため、脱水による弱化は臨界スティッフネスにも影響を及ぼす。そこで、脱水反応に支配される臨界スティッフネス Kcdeh を算出した。この臨界スティッフネスは主に脱水反応速度やすべり速度に支配される。ガス圧装置による脱水アンチゴライトのすべり挙動は、Kcdehが10-1から105 MPa/mmまで増加する。この範囲は試験機のスティッフネスの値を横切っており、すべり挙動も安定すべりから不安定すべり(スティックスリップ挙動)に遷移することがわかった。一方で、固体圧装置を用いた実験では、アンチゴライトの脱水反応時に変形させても全ての条件で安定すべりを示すのみであった。この違いは、固体圧力媒体装置の剛性がKcdeh(101–104 GPa/mm)に比べて桁で高いことに起因していると考えられる。このような脱水速度と変形速度のバランスからもたらされるアンチゴライトの複雑なすべり挙動が、天然においても沈み込むマントルでの地震性すべり、マントルウェッジでのゆっくりしたすべり、San Andreas断層でのクリープなどの多様なすべり挙動をもたらしているのかもしれない。