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[SCG50-P08] ナノインデンテーション法を用いた単結晶石英の微小領域変形に及ぼす湿度の影響評価
摩擦凝着説に則れば、摩擦力は、摩擦表面の微小な凸部の接触面積(真実接触面積)に比例する。一定の垂直応力下におかれた岩石の摩擦実験において、静止摩擦は保持時間の対数に比例して増加する(log tヒーリング)(Deiterich, 1972)。また、この場合の真実接触部の面積は負荷保持時間の対数に比例して増大することも知られている。これまでに、このlog tヒーリングが湿度依存性を持つことがいくつかの実験において報告されていることから、真実接触面積の増大速度も同様に湿度依存性を持つものと考えられていた。しかし近年、石英のナノインデンテーション法を用いた実験結果に基づいて、真実接触面積の増大速度が湿度による影響を受けない可能性が議論されている(Thom et al., 2018)。一方、尾上・堤(2020, JpGU)によれば、単結晶石英を用いて様々な湿度条件における摩擦実験を行った結果、単結晶石英におけるlog tヒーリングの湿度依存性が、湿度20%以下において最も顕著に現れるという特徴も示された。そこで、低湿度領域における真実接触面積の増大速度の湿度依存性についてより詳しく確かめることとした。
本研究では、尾上らが用いた人工水晶について低湿度条件(5-20%RH、室温)でのナノインデンテーション試験を行い、負荷保持による真実接触面積の時間増加量を計算することで、特に低湿度領域における微小変形領域の増大速度に及ぼす湿度の影響を調べた。試験には、汎用のナノインデンテーション試験機(DUH-211S、Shimadzu)を使用し、試料部に設けたアクリルチャンバー内の湿度を、ドライエア発生装置、湿度管理装置を用いて制御した。各湿度条件において異なる負荷保持時間のインデンテーション試験を行い、それぞれの試験で記録された荷重-深さデータから押し込み硬さを算出し、この押し込み硬さより、実際の接触面積を求めることを試みた。しかしながら、この方法により得られた接触面積の値にはばらつきが大きく、有意な結果を得ることはできなかった。一方で、負荷保持中の深さの推移データからは、湿度0-30%RH条件について、真実接触面積の時間増加は湿度に依存しないことが強く示唆され、先行研究と矛盾しない結果が得られた。今後、真実接触面積の増大に依らないlog tヒーリング湿度依存性のメカニズムを解明する必要がある。
接触面積のばらつきの原因であるが、石英への負荷保持実験は、特に長時間の場合でひずみ速度が小さくなるため、押し込み硬さの計算に使われる複合弾性率が熱ドリフトの影響を受けている可能性が疑われた。そこで、Liu et al. (2014) の手法に基づき、まず負荷保持をしない負荷除荷実験により高速ひずみ時の複合弾性率を求めておいて、長時間の負荷保持実験にもその複合弾性率の値を適用して接触面積を推定することを試みた。その結果、データの改善が見られなかった。深さの推移データを見ると、同じ実験条件にも関わらず負荷除荷試験の挙動が一貫しておらず、負荷保持時間に対してある時点から深さが減少しているものも見られた。追試の結果、連続して実験を行った場合に、深さの減少を示す、もしくは顕著に低い深さ増大速度さえも示すケースが多いことが分かってきた。これらの挙動が試験機の何らかの特性によるものなのか、石英の物性の均質度に起因するのかについては、さらなる検討を必要とする。
本研究では、尾上らが用いた人工水晶について低湿度条件(5-20%RH、室温)でのナノインデンテーション試験を行い、負荷保持による真実接触面積の時間増加量を計算することで、特に低湿度領域における微小変形領域の増大速度に及ぼす湿度の影響を調べた。試験には、汎用のナノインデンテーション試験機(DUH-211S、Shimadzu)を使用し、試料部に設けたアクリルチャンバー内の湿度を、ドライエア発生装置、湿度管理装置を用いて制御した。各湿度条件において異なる負荷保持時間のインデンテーション試験を行い、それぞれの試験で記録された荷重-深さデータから押し込み硬さを算出し、この押し込み硬さより、実際の接触面積を求めることを試みた。しかしながら、この方法により得られた接触面積の値にはばらつきが大きく、有意な結果を得ることはできなかった。一方で、負荷保持中の深さの推移データからは、湿度0-30%RH条件について、真実接触面積の時間増加は湿度に依存しないことが強く示唆され、先行研究と矛盾しない結果が得られた。今後、真実接触面積の増大に依らないlog tヒーリング湿度依存性のメカニズムを解明する必要がある。
接触面積のばらつきの原因であるが、石英への負荷保持実験は、特に長時間の場合でひずみ速度が小さくなるため、押し込み硬さの計算に使われる複合弾性率が熱ドリフトの影響を受けている可能性が疑われた。そこで、Liu et al. (2014) の手法に基づき、まず負荷保持をしない負荷除荷実験により高速ひずみ時の複合弾性率を求めておいて、長時間の負荷保持実験にもその複合弾性率の値を適用して接触面積を推定することを試みた。その結果、データの改善が見られなかった。深さの推移データを見ると、同じ実験条件にも関わらず負荷除荷試験の挙動が一貫しておらず、負荷保持時間に対してある時点から深さが減少しているものも見られた。追試の結果、連続して実験を行った場合に、深さの減少を示す、もしくは顕著に低い深さ増大速度さえも示すケースが多いことが分かってきた。これらの挙動が試験機の何らかの特性によるものなのか、石英の物性の均質度に起因するのかについては、さらなる検討を必要とする。