14:30 〜 15:00
[SCG54-04] 地層処分分野における地質年代学・熱年代学の重要性:最近の関連研究成果と今後の展開
★招待講演
キーワード:自然現象、地質年代学、熱年代学、地層処分
高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全確保においては、数万年以上にわたる将来にかけての火山・熱水活動、断層運動、隆起・侵食/気候・海水準変動といった自然現象の影響を評価することが求められる。そのためには、数十万年前あるいはそれ以前の過去から現在にかけてのこれら自然現象の履歴に関する情報を取得することが不可欠である。各種の年代学的手法は、過去の自然現象に係る時間軸を入れるという点で、地層処分分野においても非常に重要な役割を果たす。本発表では、原子力機構が近年実施してきた地質年代学・熱年代学に係る最近の主要な成果、および今後の研究の展開について紹介する。なお、紹介する内容の多くは、経済産業省の委託事業「平成30年度~令和4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」(以下、本事業とする)の成果である。
過去の隆起・侵食速度を把握することは、地下深部に埋設した放射性廃棄物が地表付近に接近して生活圏に著しい影響を及ぼすのを回避することに加え、山地の成長に伴う動水勾配の変化が地下水の流速・流向に及ぼす影響を評価するうえでも非常に重要である。本事業では、隆起・侵食速度を把握する新しい手法として、OSL熱年代を適用した事例を提示した(Ogata et al., 2022, EPSL)。OSL熱年代は他の熱年代学的手法に比べ閉鎖温度が低いため、侵食速度が遅い地域においても定量的な評価が可能となる。地表露頭の試料ではなく大深度ボーリングコア試料を用いることで、OSL信号が飽和する前の試料を分析し、侵食速度の評価を可能にした。また、熱構造/熱史が複雑な地域において侵食史を評価する技術を構築するため、地質温度・圧力計とU-Pb年代測定を組み合わせた手法を提案し、黒部地域などにおいて適用事例を示した(Kawakami et al., 2021, IAR; Suzuki et al., 2022, IAR)。黒部地域では、約0.8 Ma以降に急速に隆起・侵食速度が増大した履歴を提示することができた。隆起量の推定には、一般に段丘の離水年代と比高に基づき検討されることが多いが、従来手法であるテフロクロノロジーなどで離水年代の推定が困難な場合に代わる手法として、長石IRSL年代や、宇宙線生成核種濃度の深度プロファイルに基づき隆起速度を推定する適用事例も提示した(例えば、小形ほか, 2021, 第四紀研究)。
さらに、熱水活動の評価に関しては、流体包有物分析と熱年代とを組み合わせた手法により、鉱物脈形成を伴う熱水活動がもたらした到達温度と継続時間を推定する手法を提示した(Sueoka et al., submitted)。断層運動の時期の推定にも様々な年代学的手法が従来から提案されているが、本事業においても、K-Ar法などの主要な年代測定法について、粉砕実験などにより年代のリセット条件に関する情報を蓄積するとともに、阿寺断層などを対象とした年代測定を行い、中部日本の断層発達史に制約を加えた(Zwingmann et al., in prep)。
以上のように、隆起・侵食や熱水活動、断層運動を対象とした研究を中心に多くの成果が蓄積されつつあるが、信頼できる手法が確立・充実したとは言えない年代範囲、地質条件、あるいは対象イベントは依然として存在し、各手法の適用事例の拡充は引き続き重要となる。また、例えば、年代既知の断層ガウジ試料にジルコン・アパタイト標準試料を混ぜて短時間加熱実験を行い、K-Ar年代とFT年代間の比較を行うといった実験的検討(Zwingmann et al., 2022, JPGU)の蓄積に基づく各手法の不確実性の提示や信頼性の向上も必要である。モナザイトFT熱年代やイライトK-Ca年代などの新しい手法の探索も望まれる。
火山・火成活動については、地殻下部や上部マントルを対象とした電磁探査・地震波トモグラフィなどの地球物理学的手法に基づきマグマ・高温流体の分布を把握することが評価の基本となる。ただし、将来の新規火山の発生予測の観点からは、過去の履歴に関する情報を得ることが難しいこれら地球物理学的手法のみならず、地質学的情報を用いた検討も重要となる。例えば、熱年代学的手法を適用して山地の発達様式を明らかにすることにより、将来的に火山へと発展するポテンシャルを評価できる可能性がある。
過去の隆起・侵食速度を把握することは、地下深部に埋設した放射性廃棄物が地表付近に接近して生活圏に著しい影響を及ぼすのを回避することに加え、山地の成長に伴う動水勾配の変化が地下水の流速・流向に及ぼす影響を評価するうえでも非常に重要である。本事業では、隆起・侵食速度を把握する新しい手法として、OSL熱年代を適用した事例を提示した(Ogata et al., 2022, EPSL)。OSL熱年代は他の熱年代学的手法に比べ閉鎖温度が低いため、侵食速度が遅い地域においても定量的な評価が可能となる。地表露頭の試料ではなく大深度ボーリングコア試料を用いることで、OSL信号が飽和する前の試料を分析し、侵食速度の評価を可能にした。また、熱構造/熱史が複雑な地域において侵食史を評価する技術を構築するため、地質温度・圧力計とU-Pb年代測定を組み合わせた手法を提案し、黒部地域などにおいて適用事例を示した(Kawakami et al., 2021, IAR; Suzuki et al., 2022, IAR)。黒部地域では、約0.8 Ma以降に急速に隆起・侵食速度が増大した履歴を提示することができた。隆起量の推定には、一般に段丘の離水年代と比高に基づき検討されることが多いが、従来手法であるテフロクロノロジーなどで離水年代の推定が困難な場合に代わる手法として、長石IRSL年代や、宇宙線生成核種濃度の深度プロファイルに基づき隆起速度を推定する適用事例も提示した(例えば、小形ほか, 2021, 第四紀研究)。
さらに、熱水活動の評価に関しては、流体包有物分析と熱年代とを組み合わせた手法により、鉱物脈形成を伴う熱水活動がもたらした到達温度と継続時間を推定する手法を提示した(Sueoka et al., submitted)。断層運動の時期の推定にも様々な年代学的手法が従来から提案されているが、本事業においても、K-Ar法などの主要な年代測定法について、粉砕実験などにより年代のリセット条件に関する情報を蓄積するとともに、阿寺断層などを対象とした年代測定を行い、中部日本の断層発達史に制約を加えた(Zwingmann et al., in prep)。
以上のように、隆起・侵食や熱水活動、断層運動を対象とした研究を中心に多くの成果が蓄積されつつあるが、信頼できる手法が確立・充実したとは言えない年代範囲、地質条件、あるいは対象イベントは依然として存在し、各手法の適用事例の拡充は引き続き重要となる。また、例えば、年代既知の断層ガウジ試料にジルコン・アパタイト標準試料を混ぜて短時間加熱実験を行い、K-Ar年代とFT年代間の比較を行うといった実験的検討(Zwingmann et al., 2022, JPGU)の蓄積に基づく各手法の不確実性の提示や信頼性の向上も必要である。モナザイトFT熱年代やイライトK-Ca年代などの新しい手法の探索も望まれる。
火山・火成活動については、地殻下部や上部マントルを対象とした電磁探査・地震波トモグラフィなどの地球物理学的手法に基づきマグマ・高温流体の分布を把握することが評価の基本となる。ただし、将来の新規火山の発生予測の観点からは、過去の履歴に関する情報を得ることが難しいこれら地球物理学的手法のみならず、地質学的情報を用いた検討も重要となる。例えば、熱年代学的手法を適用して山地の発達様式を明らかにすることにより、将来的に火山へと発展するポテンシャルを評価できる可能性がある。