日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 機械学習による固体地球科学の牽引

2023年5月21日(日) 15:30 〜 16:45 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、直井 誠(京都大学)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、座長:金 亜伊(横浜市立大学ナノシステム研究科)、久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

15:30 〜 16:00

[SCG55-11] 機械学習を用いた太陽フレア予測と宇宙天気予報

★招待講演

*西塚 直人1 (1.国立研究開発法人 情報通信研究機構)

キーワード:太陽フレア、機械学習、予測手法、宇宙天気予報

近年、太陽衛星観測データの大容量化と共に機械学習手法を応用した予測や解析手法の開発が進められている。私の研究対象である宇宙天気予報においては太陽フレアの予測が長年の課題であり、太陽観測画像に深層学習を適用することで人手による予報精度を超えるより高精度な予測が可能になってきた。従来の太陽物理研究では太陽フレア発生機構の素過程を解明する研究がされてきた。それらの知識や経験を土台として、太陽フレア前に前兆現象として現れる黒点磁場やX線観測データの特徴を大量データから抽出して学習させることによって、より高精度な予測を可能にした。さらに同技術は現在運用化され、毎日の宇宙天気予報会議でも活用されている。

Deep Flare Netと命名された同予測モデルは、3つのパートから構成される。(1)X線、紫外線、可視光で観測した太陽コロナや光球磁場の観測データから黒点周辺の活動領域を自動検出し、(2)各領域から79個の物理特徴量を抽出、(3)それらを深層学習に入力することで24時間以内に発生する最大規模のフレアの予測を行う。太陽フレアのX線量は、地震のマグニチュードと同様に対数で表され、フレアの規模は地震の震度と同様に大規模なものからX, M, Cとクラス分けされている。太陽黒点は内部から浮上してくる磁束管によって形成され、その成長過程において磁気中性線の周りに磁気的な歪みエネルギーを蓄積する。磁気的歪みを表す物理量やトリガー機構、フレア前発光現象を捉えることが、より精度のよい予測に重要であることがわかってきた。

フレア予測の評価尺度にはTrue Skill Statistics (TSS)が用いられている。TSSは学習データのフレア事象含有率に依らないため、論文上で公平な比較ができる。従来の人手予測では0.50程度であったが、Deep Flare NetではMクラス以上のフレア予測に対して0.80の予測精度の達成に成功した。さらに近年は、国際的なベンチマークテストも行われ、標準的な評価尺度の選定が改めて課題となっている。また宇宙天気予報としては、AI予測と数値シミュレーション予測とを場合によって使い分けることで、予測精度の向上を図っている。本講演では我々のモデルの紹介や、太陽観測データとデータサイエンスにおける連携の課題について議論する。