日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 変動帯ダイナミクス

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)、座長:大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)、田村 友識(山口大学大学院(現所属:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構))

10:45 〜 11:00

[SCG56-07] 新潟-神戸歪み集中帯の測地学・地質学的観測を説明する深さ依存の変形構造

*野田 朱美1齊藤 竜彦2福山 英一3,2 (1.気象庁気象研究所、2.防災科学技術研究所、3.京都大学)

キーワード:新潟-神戸歪み集中帯、歪み速度パラドクス、弾性・非弾性歪み、GNSSデータ、活断層

プレート境界周辺で生じる地殻変動は、これまで測地学的・地質学的手法で観測されてきた。GNSSによる測地学的観測は、現在進行中の変形を高精度で捉えるが、観測期間はここ数十年分に限られる。一方、活断層等の地質学的痕跡は過去数万年以上にわたる情報を保持しているが、時間・空間解像度は限定的である。地形形成や地震発生に繋がる変動プロセスを知るためには、測地学と地質学のデータを統一的に理解する必要がある。
世界の主要なプレート境界断層では、測地学的に観測されるプレート運動速度と地質学的に観測される断層すべり速度が整合することが報告されている(例えば、Ward 1998; Bourne et al. 1998)。しかしながら複雑な変形構造を呈する地域では、測地学的観測と地質学的観測の関係が明瞭ではない場合がある。新潟-神戸歪み集中帯は後者の典型である。GNSS観測データから、新潟-神戸歪み集中帯は高い水平歪み速度(>10-7 strain/year)を示し、これを境に地殻が異なるブロックとして相対運動しているように見える。一方、活断層分布からは高歪み速度領域に対応する明瞭な地質学的構造境界を確認できない。GNSSで観測される地殻変動がどのように活断層の断層すべりに変換されて永年的に残るのか、そのプロセスは不明なままである。
この問題を解決するため、Noda & Matsu’ura (2010) の手法を用いて、地殻変動の原因となる地殻内の非弾性変形(脆性破壊・塑性変形)の分布を客観的に推定した。本手法では、非弾性変形をモーメント密度テンソルとして力学的に表現し、測地データの逆解析によりモーメント密度テンソルの3次元空間分布を推定する。モデルの自由度を抑えるため、モーメントテンソルの向きは背景応力場と同じと仮定した。歪み速度の特に大きな領域(北緯35.8~37.2°、東経136~139°)を対象地域とし、2005年3月~2011年2月のGNSS変位速度データを解析した結果、非弾性変形は上部地殻と下部地殻で異なる空間分布を示すことが分かった。すなわち、上部地殻では主要な活断層に沿って非弾性変形が複雑に分布するのに対して、下部地殻の非弾性変形は1つの基盤断層に沿って分布している。この非弾性変形の空間分布の深さによる違いが有意であることを、合成データを用いたテスト解析によって確認した。このような深さに依存する変形構造は、当該地域の測地学・地質学的観測成果の両方を自然に説明することができる。
新潟-神戸歪み集中帯の地殻変動の理解のために従来用いられてきた地殻ブロックモデルと本研究による深さ依存変形構造モデルでは、似たような地表変形を説明することができるが、地下で生じている応力ローディングの様相は全く異なる。新潟-神戸歪み集中帯のような未成熟なテクトニック境界の地形形成や地震発生のメカニズムを理解するためには、本研究の手法から推定される深さ依存の構造に基づいた力学的モデルを構築する必要がある。