日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG56] 変動帯ダイナミクス

2023年5月25日(木) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、岩森 光(東京大学・地震研究所)、大橋 聖和(山口大学大学院創成科学研究科)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/26 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[SCG56-P01] 南海トラフ地震サイクルに伴う室戸岬の地殻変動:残留隆起は存在するか?

*玉置 あい1鷺谷 威1 (1.国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学)

キーワード:室戸岬、南海トラフ地震

四国南東端にある室戸岬は南海トラフに面しており、M8程度の南海地震が約100~150年おきに発生すると室戸岬は隆起し地震間には沈降することが知られている。室戸岬周辺では海岸段丘が発達しているが、吉川ほか(1964)は地震時の隆起が地震間の沈降によって解消されずに残留し、残留隆起が累積することで段丘が形成すると考えた。一方、前杢(2001)は、海岸に付着した生物の生痕化石の炭素年代と採取高度から、南海地震の1サイクルでは残留隆起が存在せず、約1000~2000年周期の地殻内地震で隆起をしていると主張した。本研究ではGNSSを含む長期間の測地データを用いて南海トラフ地震に伴う室戸岬の上下変動を調べ、地震サイクルを通した残留隆起の有無を考察した。
本研究ではGNSS、検潮、水準測量のデータを使用した。GNSSは国土地理院のGEONETのF5解を使用した。検潮データは国土地理院の海岸昇降検知センターが提供する1972年から2020年の室戸検潮場の月平均潮位記録にKato and Tsumura(1979)の方法で気圧と海況の影響を補正したデータと1911年以降の高知における年平均潮位を用いた。水準測量データは国土地理院の一等水準測量検測成果集録を使用した。
まず2003年7月から2021年12月のGNSSによる日々の楕円体高に最小二乗法を適用し上下変動速度を求め、3~5mm/yrの沈降速度を得た。また、1980年から2020年までの室戸検潮場の海面に対する高さ変化を最小二乗法により線形近似し速度を求め8.1mm/yrを得た。この結果はGNSSと一見矛盾するが、気象庁(2021)が日本の海面水位変化から求めた1980年以降の日本の海面上昇速度 (2.7mm/yr) を差し引くと5.4mm/yrとなりGNSSの結果と整合的である。一方、1965年から2019年までの水準測量結果から、安芸の水準点5163に対する室戸岬 (水準点5142) の高さの変化を求めて線形近似すると、相対的な沈降速度は6.0mm/yrであった。GNSSから求めた安芸の上下変動速度(1.9mm/yr)を考慮すると室戸岬の沈降速度は4.1mm/yrとなりGNSSから求めた値と整合的である。このように室戸岬の地震間における平均的な沈降速度は5mm/年程度で長期にわたり安定していると考えられる。
一般に大地震の発生直後には余効変動で地震間とは異なる変化が生じることが知られている。1946年南海地震後の地殻上下変動の絶対値を知るには海面を基準とすることが必要だが、近隣に存在する検潮データは高知だけである。そこで、高知検潮場の年平均潮位と水準測量のデータを組み合わせて推定したところ1947~1965年の室戸岬の上下変動として2つの方法で+49mm、+16mmとの結果が得られ、この間にわずかに隆起をしていたと考えられる。地震間の沈降速度を5mm/yrと仮定して地震間の沈降量を見積ると100年、120年、150年でそれぞれ50cm、60cm、75cmとなる。地震に伴う隆起量が過去3回のいずれも1mを超えていたことと合わせると地震時の隆起量は地震間で解消されず残留隆起は存在すると考えられる。一方、過去3回の隆起量の合計と地震間の沈降速度から導き出される平均速度は、海岸段丘の高度から推定される長期的な隆起速度(2mm/yr)に比べて倍以上大きく更なる検討が必要である。