日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 破局噴火:メカニズムと地球表層へのインパクト

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、前野 深(東京大学地震研究所)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、座長:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、前野 深(東京大学地震研究所)

14:45 〜 15:00

[SCG57-05] 地球史における大規模火山活動と地球環境

★招待講演

*黒田 潤一郎1,2松本 廣直2太田 雄貴3渡辺 泰士4,5大河内 直彦2 (1.東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構、3.国立研究開発法人産業技術総合研究所、4.東京大学大学院理学系研究科、5.気象庁気象研究所)

キーワード:大規模火山活動、環境変動、トバ火山

大規模な火山噴火は,大気海洋といった地球表層圏にさまざまな影響を与える.1991年のフィリピン・ピナツボ火山の噴火では,その後数年間対流圏の温度が最大0.7℃低下した.2010年のアイスランド・Eyjafjallajökull火山では,海洋への鉄散布効果で一時的に海洋の生物基礎生産が上がった.さらに,大規模火山活動が数十年規模の気候振動の重要な強制力になっていると指摘する研究もある.このように,火山噴火の大気海洋への短期的(年内~数十年規模)なインパクトは,年々理解が進んでいる.しかし,機器観測ができない古い時代に起こった,より巨大な火山活動による大気海洋への影響は,まだ研究が進んでいない.それでも,近年,海底堆積物を用いて過去の大規模火山活動とその気候や海洋環境への影響を議論する研究が盛んにおこなわれている.今回の講演では,地球史のいくつかのイベントに注目し,そのリンクについて紹介したい.

1. トバ火山.インドネシアのトバ火山は,約74 kaに第四紀最大級の噴火を起こした.インド洋や南シナ海を中心に広く珪長質火山灰(Younger Toba Tephra, YTT)が分布する.掘削船「ちきゅう」によるインド洋ベンガル湾の掘削航海では,約5 cm厚の珪長質火山灰層(Ota et al., 2019)が回収され,その分析の結果YTTと認定された.この海底堆積物の分析を進め,水温の変動などが起こったかを検討したところ,火山灰層直上の層準で顕著な水温の低下は認められなかった.極域氷床コアの硫酸塩の硫黄同位体記録からトバ火山のタイミングが精査され,グリーンランドの亜氷期GS-20がすでに始まったタイミングで噴火しており,寒冷化のトリガーにはなっていないことが指摘されている(Crick et al. 2021).

2. デカン洪水玄武岩.白亜紀末に噴火したインド・デカントラップは,マーストリヒチアンの温暖化を引き起こした可能性がある(Barnet et al., 2017).火山活動が長期的には温暖化を引き起こすという影響を見るのに適した例である.この火山活動が始まったタイミングを制約するのに,溶岩のジルコンU-Pbと海底堆積物のOs同位体記録(187Os/188Os)という二つの強力なツールがあり,両者の対比から,より精密な洪水玄武岩のオンセットのタイミングと,マーストリヒチアン温暖化のタイミングの前後関係が明らかにできると期待される(Schoene et al., 2019).

3. オントンジャワ海台.
白亜紀の中ごろには,オントンジャワ海台など複数の巨大海台が形成された.これらの噴火史は,海台の火成岩類そのものの研究に加え,同時代の周辺海域の海底堆積物からも制約される.堆積物中のOs同位体比やPb同位体比を用いることで,Os同位体比やPb同位体比が巨大海台の火成岩類の値にシフトするタイミングを海台の噴火の年代として抑えることができる.いくつかの巨大海台のタイミングは,海洋無酸素イベント(OAE)のタイミングや海洋生物のターンオーバー,炭素同位体比のシフトのタイミングと一致しており,海洋循環,生物絶滅,炭素循環の擾乱を引き起こした可能性やその前後関係を検討することができる(Matsumoto et al., 2022).

プレゼンテーションでは,この他にもマグマ貫入によって接触変成,熱分解による温室効果ガスの放出がもたらしたとされる気候変動にも言及し,統合的に火山活動,火成活動の気候や海洋への影響を検討したい.

Barnet, J.S.K., Littler, K., et al. (2017) Geology, 46, 147-150.
Crick, L., Burke, A., et al. (2021) Climate Past, 17, 2119-2137.
Matsumoto, H., Coccioni, R., et al. (2022) Nature Comm., 13, no. 239.
Ota, Y., Kawahata, H., et al. (2019) Geochem., Geophys., Geosys., 20, 148-165.
Schoene, B., Eddy, M.P., et al. (2019) Science, 363, 862-866.