日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 破局噴火:メカニズムと地球表層へのインパクト

2023年5月26日(金) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、前野 深(東京大学地震研究所)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[SCG57-P01] 7.3 ka鬼界カルデラ形成噴火の時系列

*前野 深1春田 悠祐2 (1.東京大学地震研究所、2.東京大学大学院理学系研究科)

キーワード:カルデラ、マグマシステム、鬼界、噴出量、気候変動

南九州鬼界カルデラで7.3 kaに発生したカルデラ形成噴火(鬼界アカホヤ噴火)は完新世における地球上で最大規模の噴火であり、極域氷床コアにも噴火による大気中の硫黄濃度増加を示唆する記録がある。地表現象やマグマシステムを含めたこの噴火の全体像の復元は、地球上で繰り返される大規模珪長質火砕噴火のメカニズムと噴火による広域的なインパクトを解明する上で重要である。ここで言うインパクトには、火山灰の堆積による地表環境の改変、大気中に放出された揮発性物質に起因する気候変動などが含まれる。本発表では、前駆的活動も含めた鬼界アカホヤ噴火の時系列の復元に関する近年の成果と課題について述べる。
 鬼界アカホヤ噴火の推移の大枠は、プリニー式噴火(ステージ1、VEI 6相当)とそれに続く大規模火砕流の噴出およびカルデラ形成(ステージ2、VEI7相当)であり、基本的には他の大規模珪長質火砕噴火と共通する特徴を有している。一方でボーリング掘削などから7.3 ka直前に流紋岩マグマ(>0.5 km3)を噴出する活動の存在が明らかになり、噴火の復元において、前駆的活動を含めたマグマシステムの変遷の解明の重要性が増している。
 地表現象とそのインパクトの理解に向けては、噴火ステージ毎の噴出量およびそれを説明するマグマ噴出率や継続時間への制約が大きな課題である。ステージ1のプリニー式噴火については最近の詳細な調査により、噴火推移や噴出量について新たな知見が得られている。とくに先行するプリニー式噴火の噴出量は、カルデラの形成条件と密接に関係するという物理モデルがあるように、クライマックスで発生した現象の復元において一つの鍵となるため、その制約には重要な意義がある。また、近傍堆積物の精査の結果、ステージ1とステージ2の間には数日あるいは数週間以上の時間間隙の存在を示唆する侵食面等、いくつかの地質学的痕跡が見出され、プリニー式噴火から大規模火砕流噴出へと、噴火が不連続に進行したことも明らかになってきた。噴火のクライマックスであるステージ2の噴出量はテフラで100 km3をゆうに超えることがわかっているものの、九州本土に到達した火砕流(幸屋火砕流)を発生させた大規模噴煙の物理量や、カルデラ形成の様式および時間発展についてはまだ十分な制約が与えられていない。鬼界アカホヤ噴火の噴出量の大部分を占めるステージ2の噴火様式と推移の詳細な解明に加えて、マグマの化学的性質とくに硫黄をはじめとした揮発性成分濃度の解明は、大気中に放出された揮発性成分の総量の推定や、ひいては噴火がどの程度の気候変動を引き起こしたかの評価において不可欠である。鬼界アカホヤ噴火の時系列の復元は着実に進んでいるものの、噴火の全体像の再構築のためには解決すべき問題が残されている。