14:15 〜 14:30
[SCG58-08] 流体経路におけるP波とS波の減衰の時間変化
キーワード:スロースリップ、流体、減衰
日本の関東地方において最も地震活動が活発な地域の一つである、茨城県南西部直下のQp-1, Qs-1, Qp-1/Qs-1の2009年10月から2021年8月までの長期的な時間変化を調べ、その周辺の地震活動との時空間的相関および減衰メカニズムについて考察した。
茨城県南西部直下では、沈み込むフィリピン海プレートの上部境界面に沿って、深さ40-60kmにおいて地震クラスタ(megathrust cluster)がNW-SE方向に発達している。Megathrust clusterは繰り返し地震を含んでおり、その活動から短期的スロースリップが約一年周期で発生している可能性が示唆されている。上盤プレート内では、Megathrust clusterの直上(25-35km)に地震クラスタが観測されており、周期的に地震数が増加している。Nakajima and Uchida (2018)は、megathrust上のSSE、上盤プレート内のQp-1およびsupra-slab clusterの地震数の時空間的な相関関係を調べ、SSEによるプレート境界から上盤プレートへの排水を提案した。
P波とS波のQ-1の比較は、2つの実体波の伝播特性の違いから、媒質の支配的な減衰メカニズムに制約を与えることができる。例えば、地球の大部分を占めるマントル内部(アセノスフィア)では岩石は延性的な振る舞いを示すため、grain boundary interactionsやintragranular relaxationに起因するメカニズム(The Burgers modelで単純化される)が内部減衰を支配し、P波よりもS波の減衰を強める。一方で、地殻やマントル最上部などのリソスフィア内では、しばしばS波よりもP波の高減衰が観測されており、これらについては別の支配的なメカニズムを考える必要がある。波動が引き起こす熱弾性緩和や流体流れによる波動エネルギーの散逸はその代表例である。そこで、本研究では上記の観点から、先行研究によって液状流体の存在が示唆されている茨城県南西部の上盤プレート内のQp-1, Qs-1の時間変化を調べ、支配的な減衰メカニズムを考察した。
MeSO-net (Metropolitan Seismic Observation network)の8観測点で2009年10月から2021年8月までに収録された2156個の地震波形を用いて、Nakajima and Uchida (2018)の手法を採用して20-45HzにおけるQp-1, Qs-1の時間変化を調べた。地震活動解析においては、hypocenter catalog of Japan Meteorological Agency (JMA)に収録されたsupra-slab地震と、Igarashi (2020)で決定された繰り返し地震のカタログを使用した。解析の結果、Qp-1, Qs-1ともに約一年周期の時間変化を示し、SSEとsupra-slab地震数の間の時空間的な相関が見られた。さらに、解析期間において全体的にQp-1>Qs-1が見られ、SSEの発生に伴いQp-1/Qs-1の上昇が見られた。対象領域において液状流体の存在や、既存のフラクチャが示唆されていることから、これらの結果は圧縮波によって液状流体に満たされたクラック-岩石のポア間でのmesoscopic scaleでの流体流れ(wave-induced fluid flow, WIFF)が生じていることを示唆している可能性がある。一般には我々の対象領域では高い封圧のため、クラックが閉じられることによってWIFFが起こりにくいと考えられているが、今後の研究でS波の異方性の時間変化等を調べることによって妥当性を検討することができるかもしれない。
茨城県南西部直下では、沈み込むフィリピン海プレートの上部境界面に沿って、深さ40-60kmにおいて地震クラスタ(megathrust cluster)がNW-SE方向に発達している。Megathrust clusterは繰り返し地震を含んでおり、その活動から短期的スロースリップが約一年周期で発生している可能性が示唆されている。上盤プレート内では、Megathrust clusterの直上(25-35km)に地震クラスタが観測されており、周期的に地震数が増加している。Nakajima and Uchida (2018)は、megathrust上のSSE、上盤プレート内のQp-1およびsupra-slab clusterの地震数の時空間的な相関関係を調べ、SSEによるプレート境界から上盤プレートへの排水を提案した。
P波とS波のQ-1の比較は、2つの実体波の伝播特性の違いから、媒質の支配的な減衰メカニズムに制約を与えることができる。例えば、地球の大部分を占めるマントル内部(アセノスフィア)では岩石は延性的な振る舞いを示すため、grain boundary interactionsやintragranular relaxationに起因するメカニズム(The Burgers modelで単純化される)が内部減衰を支配し、P波よりもS波の減衰を強める。一方で、地殻やマントル最上部などのリソスフィア内では、しばしばS波よりもP波の高減衰が観測されており、これらについては別の支配的なメカニズムを考える必要がある。波動が引き起こす熱弾性緩和や流体流れによる波動エネルギーの散逸はその代表例である。そこで、本研究では上記の観点から、先行研究によって液状流体の存在が示唆されている茨城県南西部の上盤プレート内のQp-1, Qs-1の時間変化を調べ、支配的な減衰メカニズムを考察した。
MeSO-net (Metropolitan Seismic Observation network)の8観測点で2009年10月から2021年8月までに収録された2156個の地震波形を用いて、Nakajima and Uchida (2018)の手法を採用して20-45HzにおけるQp-1, Qs-1の時間変化を調べた。地震活動解析においては、hypocenter catalog of Japan Meteorological Agency (JMA)に収録されたsupra-slab地震と、Igarashi (2020)で決定された繰り返し地震のカタログを使用した。解析の結果、Qp-1, Qs-1ともに約一年周期の時間変化を示し、SSEとsupra-slab地震数の間の時空間的な相関が見られた。さらに、解析期間において全体的にQp-1>Qs-1が見られ、SSEの発生に伴いQp-1/Qs-1の上昇が見られた。対象領域において液状流体の存在や、既存のフラクチャが示唆されていることから、これらの結果は圧縮波によって液状流体に満たされたクラック-岩石のポア間でのmesoscopic scaleでの流体流れ(wave-induced fluid flow, WIFF)が生じていることを示唆している可能性がある。一般には我々の対象領域では高い封圧のため、クラックが閉じられることによってWIFFが起こりにくいと考えられているが、今後の研究でS波の異方性の時間変化等を調べることによって妥当性を検討することができるかもしれない。