日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG58] 岩石―流体相互作用の新展開:表層から沈み込み帯深部まで

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、片山 郁夫(広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、中島 淳一(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SCG58-P02] 愛媛県伯方島北部トウビョウ鼻に産する閃長岩類:2種類の流体による花崗岩交代作用の地質記録

*福井 堂子1齊藤 哲1高橋 俊郎2 (1.愛媛大学大学院理工学研究科、2.新潟大学理学部理学科地質科学プログラム)


キーワード:伯方島、閃長岩、交代変質作用

1.はじめに
 交代作用とは,岩石と流体とが反応し,その岩石の鉱物組成・化学組成を変化させる作用であり,その例として地殻深部における花崗岩類の閃長岩化が挙げられる.大陸地殻の主要な構成岩石である花崗岩類に対して流体が及ぼす交代作用について理解することは,地殻進化をもたらす物質移動プロセスを解明していく上で重要である.西南日本内帯には白亜紀後期の大規模火成活動によって形成された花崗岩類の分布域に交代性閃長岩類が点在しており,それらの記載岩石学的特徴および全岩化学組成・鉱物化学組成についていくつかの報告がある(例えば, 村上, 1976).一方,愛媛県芸予諸島伯方島を構成する岩石については,これまで記載岩石学的な検討に基づく多様な花崗岩類の分布が報告されているが(越智, 1991; 桃井, 1991; 松浦, 2002),本研究において新たに花崗岩類に伴う2種類の交代性閃長岩類を見出した.この2種類の閃長岩類について,本研究では詳細な野外産状および岩石記載,化学組成分析をおこなうとともに,それらを形成する交代作用を引き起こした流体の組成的特徴について考察した.

2. 地質概説・岩石記載
伯方島を構成する岩石は主として花崗岩と花崗閃緑岩であり,花崗斑岩脈や苦鉄質岩脈がこれらに貫入する.交代性閃長岩類は伯方島の最北端のトウビョウ鼻に,花崗岩類に伴い局所的に産出する.この閃長岩類には2種類の岩相がみられ(以後,Type 1, Type 2とする),Type 1は北東~南西方向に40 m,北西~南東方向に10 m,Type 2は北東~南西方向に60 m,北西~南東方向に5 m程度の規模でそれぞれ分布している.
当地域の閃長岩類は中粒~粗粒で,周囲の花崗岩との境界が不明瞭であり,両者が漸移的に変化する.閃長岩Type 1は比較的塊状・緻密な岩相で,構成鉱物としてアルカリ長石,斜長石,単斜輝石,柘榴石,チタン石,ジルコン,燐灰石,褐簾石,磁鉄鉱が認められる.アルカリ長石は粒径1~4 mm程度で,パーサイト組織または網目状のメソパーサイト組織を呈する.単斜輝石と柘榴石は粒状集合組織を呈し,それらの粒径は0.1~0.5 mm程度である.ジルコンは自形のものと他形のものとがみられ,他形のものはしばしば外縁部が湾状に融食されている.またアルカリ長石中には結晶の成長面と無関係な方向に列をなす流体包有物がみられる.一方,閃長岩Type 2は野外においては多数の空隙や有色鉱物のレイヤリングが特徴的に認められる.構成鉱物としてアルカリ長石・斜長石・単斜輝石・柘榴石・チタン石が認められる.アルカリ長石はパーサイト組織を呈している.また,柘榴石が粒状の単斜輝石やアルカリ長石を包有する組織が一部に認められる.

3. 全岩化学組成
ハーカー図において,閃長岩類は母岩の花崗岩類とは異なる組成範囲を示し,特にSiO2, K2O, Rb含有量が花崗岩類より低く,Na2O, Sr, Ba含有量が高い.また,2種類の閃長岩類を比較すると,Type 1のFeO(total), MgO, CaO, Sr, Y, Ba含有量はType 2より高いのに対し,Al2O3含有量はType 1よりType 2の方が高い.希土類元素については,Type 1閃長岩,周囲の花崗岩類,Type 2閃長岩の順でその総量が低くなる.また閃長岩類は両者ともEuの負異常をしめし,Type 1よりType 2がより顕著なEu負異常を示す.またType 2は顕著なCeの正異常を示す.

4. 考察
本研究では2つの組成の異なる閃長岩類について,それぞれ形成時にどのような元素移動が起きたかを検討するため,Ceを不動元素としてIsocon解析を行った.その結果,母岩の花崗岩類と比較してType1ではTi, Mg, Mn, P, Be, Co, Cdが増加し,Si, B,W, Pbが減少するのに対し,Type 2ではNa, K, Li, Rb, Nb, Taが増加し,Ca, Cs, Pb, Euが減少する特徴がみられた. Type 1とType 2において異なる元素の増減が認められたことから,両者を形成する交代作用には組成の大きく異なる2種類の流体が関与したものと考えられる.

引用文献:松浦ほか (2002) 20万分の1地質図幅「岡山及丸亀」, 産業技術総合研究所地質調査センター, 1‐2; 村上 (1958) 岩鉱, 42, 309-318; 43, 85-97; 村上 (1976) 岩石鉱物鉱床学会誌 特別号, 261-281; 桃井ほか (1991), 愛媛県地質図(20万分の1)第4版. 12₋15; 越智 (1991) 日本の地質8, 四国地方, 共立出版, 6-12.