15:45 〜 16:00
[SCG59-02] 琵琶湖の深部湖底湧水の現状とその湖底環境への影響
キーワード:琵琶湖、湖底湧水、環境
1 はじめに
琵琶湖に流入する水の10-20%が,湖底からの湧水によるとされていて(滋賀県,2018),それは琵琶湖環境に無視出来ない影響を与えていると考えられる.しかし,深部湖底湧水の実態は明らかになっていない.琵琶湖では,一般に,春~秋に湖水が成層構造を形成し,冬に全層循環が起きてその成層構造が解消される.したがって,湖底深部で湧水があれば,春~秋の時期に深部湖底環境は大きく影響されることになる.加えて, 2019年と2020年の冬は,暖冬のため全層循環が発生しなかった.地球温暖化も考慮すると,湖底環境保全のため,琵琶湖の深部湖底湧水を研究することが重要である.
Kumagai et al.(2021)は、マルチビーム音響測量、AUV「淡探」による探索、湖底堆積物の温度勾配測定などによって、北湖西部(高島市沖)の琵琶湖最深部付近でメタン99%以上のガスを伴う深部湖底湧水を2009年に発見した。Kumagai et al.(2021)の2009年~2019年の調査によれば、湧水孔や深部湖底湧水からのガスによると思われる水中音響異常(以降、ガス音響異常)は,南北約10㎞の長さで線上に並ぶ。また、それらは、湖底堆積層の厚みが500m以下の所に存在するとされている。Kumagai et al.(2021)は、この深部湖底湧水による湖底環境への影響を危惧しているが、2013年以降は、同湧水については十分な調査は行われていない。以上を考慮して,我々は,この深部湖底湧水の実態と湖底環境への影響を明らかにすることを目的として,科学研究費補助金「20H01974: 琵琶湖深部湖底湧水の地下構造との関係解明および湖底環境への影響評価」によって研究を行った.
2 方法
広範囲で網羅的な音波探査、CTD測定,3深度(5m, 50m, 湖底)での湖水の水質と同位体比測定をY1(北緯35度20.22-20.25分, 136度6.09-6.13分,水深約90-100m)とT1(北緯35度22.19分, 136度05.83分,水深約90m)付近で2021-2022年に行った(Fig.1).ガス音響異常が安定して検出される場所がY1であり,T1は,Y1と比較するための点で滋賀県立大学の定期観測点である.我々は、Y1周辺での湖底温度勾配測定も行った。また、Y1において湖水表面で水上置換によってガスを採取し、その中のメタンの炭素・水素の同位体比の分析も行った。
3 結果と考察
ガス音響異常は36地点検出され、Kumagai et al.(2021)が報告している湧出孔の線状分布より幅広く、南北に帯状に分布していた(Fig.1)。36点中26点が湖底堆積物の厚さ(基盤の深さ)が500m未満の地点であったが、残り10点は、同厚さが500m~800mの所であった。以上の結果は、湖底のガスの噴出地点が、湖底の地下構造に影響を受けていることを示している。
CTD調査の結果や水質は、Y1とT1で概ね一致していたが、一部の時期で、湖底においてY1とT1で違いがみられた。水素・酸素同位体比の結果から、T1とY1で通常の採水器で採水された湖水は降水起源であることを示した。しかし、2021年12月2日のY1における採泥の際に取水された泥上の上澄みの水の水素・酸素同位体比は、通常の降水起源の範囲から外れるという事がわかった。以上の結果は、深部湖底湧水の湧水量か水質が時間的に変化していることや、深部湖底湧水が通常の降水起源ではない可能性を示す。
採集したガスのメタン濃度は30〜60%程度であり、検出したメタンは、そのメタン中の炭素及び水素の同位体比から、湖底堆積物に由来する有機起源のものであると判明した。この結果は、メタンの起源は、深部湖底湧水のそれよりも浅い所にあることを示している。
謝辞
熊谷道夫立命館大学教授には,琵琶湖湖底地形や湧出孔・ガス音響異常の位置について貴重なデータを頂いた.滋賀県立大学環境科学部4年生の池藤泰斗君、豊田はるかさん、田代秋華さんには調査と分析を手伝っていただいた。これらの方々に感謝の意を表します.
琵琶湖に流入する水の10-20%が,湖底からの湧水によるとされていて(滋賀県,2018),それは琵琶湖環境に無視出来ない影響を与えていると考えられる.しかし,深部湖底湧水の実態は明らかになっていない.琵琶湖では,一般に,春~秋に湖水が成層構造を形成し,冬に全層循環が起きてその成層構造が解消される.したがって,湖底深部で湧水があれば,春~秋の時期に深部湖底環境は大きく影響されることになる.加えて, 2019年と2020年の冬は,暖冬のため全層循環が発生しなかった.地球温暖化も考慮すると,湖底環境保全のため,琵琶湖の深部湖底湧水を研究することが重要である.
Kumagai et al.(2021)は、マルチビーム音響測量、AUV「淡探」による探索、湖底堆積物の温度勾配測定などによって、北湖西部(高島市沖)の琵琶湖最深部付近でメタン99%以上のガスを伴う深部湖底湧水を2009年に発見した。Kumagai et al.(2021)の2009年~2019年の調査によれば、湧水孔や深部湖底湧水からのガスによると思われる水中音響異常(以降、ガス音響異常)は,南北約10㎞の長さで線上に並ぶ。また、それらは、湖底堆積層の厚みが500m以下の所に存在するとされている。Kumagai et al.(2021)は、この深部湖底湧水による湖底環境への影響を危惧しているが、2013年以降は、同湧水については十分な調査は行われていない。以上を考慮して,我々は,この深部湖底湧水の実態と湖底環境への影響を明らかにすることを目的として,科学研究費補助金「20H01974: 琵琶湖深部湖底湧水の地下構造との関係解明および湖底環境への影響評価」によって研究を行った.
2 方法
広範囲で網羅的な音波探査、CTD測定,3深度(5m, 50m, 湖底)での湖水の水質と同位体比測定をY1(北緯35度20.22-20.25分, 136度6.09-6.13分,水深約90-100m)とT1(北緯35度22.19分, 136度05.83分,水深約90m)付近で2021-2022年に行った(Fig.1).ガス音響異常が安定して検出される場所がY1であり,T1は,Y1と比較するための点で滋賀県立大学の定期観測点である.我々は、Y1周辺での湖底温度勾配測定も行った。また、Y1において湖水表面で水上置換によってガスを採取し、その中のメタンの炭素・水素の同位体比の分析も行った。
3 結果と考察
ガス音響異常は36地点検出され、Kumagai et al.(2021)が報告している湧出孔の線状分布より幅広く、南北に帯状に分布していた(Fig.1)。36点中26点が湖底堆積物の厚さ(基盤の深さ)が500m未満の地点であったが、残り10点は、同厚さが500m~800mの所であった。以上の結果は、湖底のガスの噴出地点が、湖底の地下構造に影響を受けていることを示している。
CTD調査の結果や水質は、Y1とT1で概ね一致していたが、一部の時期で、湖底においてY1とT1で違いがみられた。水素・酸素同位体比の結果から、T1とY1で通常の採水器で採水された湖水は降水起源であることを示した。しかし、2021年12月2日のY1における採泥の際に取水された泥上の上澄みの水の水素・酸素同位体比は、通常の降水起源の範囲から外れるという事がわかった。以上の結果は、深部湖底湧水の湧水量か水質が時間的に変化していることや、深部湖底湧水が通常の降水起源ではない可能性を示す。
採集したガスのメタン濃度は30〜60%程度であり、検出したメタンは、そのメタン中の炭素及び水素の同位体比から、湖底堆積物に由来する有機起源のものであると判明した。この結果は、メタンの起源は、深部湖底湧水のそれよりも浅い所にあることを示している。
謝辞
熊谷道夫立命館大学教授には,琵琶湖湖底地形や湧出孔・ガス音響異常の位置について貴重なデータを頂いた.滋賀県立大学環境科学部4年生の池藤泰斗君、豊田はるかさん、田代秋華さんには調査と分析を手伝っていただいた。これらの方々に感謝の意を表します.