日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 地殻流体と地殻変動

2023年5月22日(月) 15:30 〜 16:45 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、笠谷 貴史(海洋研究開発機構)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)、座長:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

16:00 〜 16:15

[SCG59-03] 地震火山相互作用の検出を目的とした地下水溶存ガスの連続観測

*角森 史昭1森川 徳敏2高橋 正明2川端 訓代3 (1.東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設、2.産業技術総合研究所 地質調査総合センター、3.鹿児島大学 総合教育機構アドミッションセンター)

キーワード:温泉水、連続観測

本発表では、阿蘇・熊本地域で行っている温泉溶存ガスの連続観測のこれまでの結果について紹介する。
 2016年に発生した熊本地震では、日奈久断層と布田川断層の結節点を震源とする地震と、日奈久断層内を震源とする地震が大きな被害をもたらした。この時の余震域は、阿蘇山内部まで伸びており、阿蘇山の火山活動と断層内の地震の発生に相互作用があるのではないかと予想された。Aizawa et al.(2021)が明らかにした布田川断層に沿った領域の比抵抗構造によると、熊本地震の震源域に流体を供給するかのような低比抵抗域(C1)と阿蘇山直下の低比抵抗域(C2)が確認されている。もし、阿蘇山の火山活動と布田川断層の地震活動に相互作用があるとすれば、これらの低速度域から供給される流体が関与している可能性がある。そうであれば、C1とC2から供給される深部起源流体の組成の時系列にも相関があるかもしれない。そこで、C1とC2から供給される深部起源流体を検出することを目標としている。
 Iwamori et al.(2023)によると、阿蘇・熊本地域にはヘリウム同位体比が高い温泉が点在している。このうち、布田川断層沿いの温泉と阿蘇山カルデラ内の温泉の2カ所に観測装置を設置して、溶存ガスを抽出し四重極質量分析計で継続的に観測した。阿蘇カルデラ内の観測点ASOでは、採水深度35mから常時揚水されている温泉を観測対象とした。2021年10月の噴火の前から組成が乱れ始め、2022年の1月頃には乱れはなくなったが、温泉水中の大気混入量が大きく増えた。これは噴火前後で温泉地域に供給される深部起源ガスの量が相対的に少なくなったと考えられる結果である。一方、布田川断層沿いの観測点KUMでは、採水震度1100mから間欠的に揚水されている温泉を観測対象とした。阿蘇山の噴火時も周囲で起きる地震発生にも呼応するような、溶存ガスの組成変化は認められなかった。
 現状の結果から、ASOとKUMの組み合わせでは、地震と火山の相互作用を検出できなかったことを意味している。そこで、断層沿いの観測点をより阿蘇山に近い布田川断層に沿った観測点OTNに移設して、2022年12月から観測を始めた。ここでの溶存ガス組成はKUMに比べて安定しているように見える。今後は、OTNのデータの変化に注目して行く予定である。