13:45 〜 15:15
[SCG59-P01] 九州地方の温泉化学成分を用いた主成分分析とその地質学的考察
キーワード:温泉、ビッグデータ、多変量解析
1.はじめに
沈み込み帯に位置する日本列島は地殻活動が活発であり,そのモニタリングが重要である.火山活動や断層運動は,岩石と地殻流動との密接な相互作用の結果であるため,温泉水や湧水は地殻活動の情報媒体として有用である.特に九州地方は,大分県や鹿児島県,熊本県と全国屈指の源泉数を誇る地域であり,温泉利用の公衆浴場数も多い.しかし,温泉成分に関するまとまったデータベースは存在しない.また,主要溶存イオン(Na⁺+K⁺,Ca²⁺,Mg²⁺,Cl⁻,SO₄²⁻,HCO₃⁻)の組み合わせによる分類が主流であるが,分析されているイオンがすべて使われているわけではない.本研究では,温泉法に基づく温泉成分分析の結果をコンパイルし,QGISや統計分析手法を用いてビッグデータ解析を行い,その地域特性を明らかにし,新しい分類法を提案することを目的とする.
2.手法
フィールドワークによって各地の温泉水・湧水の温泉分析書を収集した.また,情報公開法に基づく情報公開請求,情報提供依頼を九州・沖縄地方の各県,市に対して行った.
泉温による分類,液性による分類,化学組成による分類を行い,それぞれの結果をQGISを用いて産業技術総合研究所が配信している20万分の1シームレス地質図や白地図にプロットし,特性を考察した.泉質の相違を検討する際には,トリリニアダイアグラムを使用した.
R言語を用いて主成分分析を行い,鉱泉分析法指針(環境省自然環境局)の浴用利用に行うべき試験項目に基づく最低限の化学成分における解析を行った.
3.結果と考察
(1)データベース構築
個人情報を考慮したうえで公開された1742件の紙媒体の温泉分析書を入手した.源泉名や源泉所在地,分析年月日,泉温,pH,陽イオン,陰イオン等のデータ計72項目のデータベースを作成,デジタル化した.源泉所在地からGeocoding.jp API version1.2を用いて緯度・経度を割り出した.
(2)データベース解析に基づく地域分析
活火山,第四紀火山周辺の温泉は泉温が高いものが多かった.福岡県や佐賀県,沖縄県では周辺に火山はないが泉温が高い温泉が見られた.地温勾配との関係性が考えられるが,掘削深度の記載がないため明らかでない.
酸性泉は雲仙岳,九重山,由布岳,鶴見岳・伽藍岳,霧島山,米丸・住吉池,桜島,池田・山川の火山周辺に見られた.それ以外の地域にある酸性泉は泉温が低い傾向があった.中性泉,アルカリ性泉ともに九州・沖縄の様々な地域で見られた.
Na-Cl型は多くが海岸沿いで見られ,内陸では堆積岩層に集中して見られた.これらは海水の影響を受けた温泉であると考えられる.Na-SO₄型,Ca-SO₄型,Mg-SO₄型,Ca-HCO₃型,Mg-HCO₃型は火山周辺で見られた.これらは火山の影響を受けた温泉であると考えられる.Na-HCO₃型が九州で一番数が多く,堆積岩層,火成岩層ともに広く分布していた.Ca-Cl型は福岡市の警固断層周辺に多く見られ,警固断層を通った海水のNa⁺とCa²⁺がイオン交換されたのものだと考えられる.
(3) データベース構築の主成分分析による新しい分類法の提案
最も卓越する主成分PC1は主要溶存イオンとMn²⁺の濃度,PC2はAl³⁺,Fe²⁺,Fe³⁺の濃度,PC3では遊離炭酸ガスと溶存炭酸イオンの相反する性質,PC4はS₂O₃²⁻とHS⁻,遊離ガスの濃度を示すような結果が得られた.寄与率はPC1から順に21.93%,10.62%,8.329%,6.82%であった.主成分分析の結果により,新たな分類が可能となった.
4.まとめ
本研究では,九州地方の温泉分析書1742件のデータベースを構築した.これにより地理空間情報のビッグデータとして解析することが可能となった.地域分析により地域の地質に応じた傾向が明らかになった.断層や火山などの地殻活動に関連する違いも見出された.さらに,主成分分析によって,温泉の分類をするうえで実質的に寄与している成分を用いて分類できるようになった.これまでの主要なイオンを用いる分類と異なり,地質学的な解釈を行っていくうえで有効であると考えられる.データベースの精度向上と地球科学的な理解を深めることが今後の課題である.
沈み込み帯に位置する日本列島は地殻活動が活発であり,そのモニタリングが重要である.火山活動や断層運動は,岩石と地殻流動との密接な相互作用の結果であるため,温泉水や湧水は地殻活動の情報媒体として有用である.特に九州地方は,大分県や鹿児島県,熊本県と全国屈指の源泉数を誇る地域であり,温泉利用の公衆浴場数も多い.しかし,温泉成分に関するまとまったデータベースは存在しない.また,主要溶存イオン(Na⁺+K⁺,Ca²⁺,Mg²⁺,Cl⁻,SO₄²⁻,HCO₃⁻)の組み合わせによる分類が主流であるが,分析されているイオンがすべて使われているわけではない.本研究では,温泉法に基づく温泉成分分析の結果をコンパイルし,QGISや統計分析手法を用いてビッグデータ解析を行い,その地域特性を明らかにし,新しい分類法を提案することを目的とする.
2.手法
フィールドワークによって各地の温泉水・湧水の温泉分析書を収集した.また,情報公開法に基づく情報公開請求,情報提供依頼を九州・沖縄地方の各県,市に対して行った.
泉温による分類,液性による分類,化学組成による分類を行い,それぞれの結果をQGISを用いて産業技術総合研究所が配信している20万分の1シームレス地質図や白地図にプロットし,特性を考察した.泉質の相違を検討する際には,トリリニアダイアグラムを使用した.
R言語を用いて主成分分析を行い,鉱泉分析法指針(環境省自然環境局)の浴用利用に行うべき試験項目に基づく最低限の化学成分における解析を行った.
3.結果と考察
(1)データベース構築
個人情報を考慮したうえで公開された1742件の紙媒体の温泉分析書を入手した.源泉名や源泉所在地,分析年月日,泉温,pH,陽イオン,陰イオン等のデータ計72項目のデータベースを作成,デジタル化した.源泉所在地からGeocoding.jp API version1.2を用いて緯度・経度を割り出した.
(2)データベース解析に基づく地域分析
活火山,第四紀火山周辺の温泉は泉温が高いものが多かった.福岡県や佐賀県,沖縄県では周辺に火山はないが泉温が高い温泉が見られた.地温勾配との関係性が考えられるが,掘削深度の記載がないため明らかでない.
酸性泉は雲仙岳,九重山,由布岳,鶴見岳・伽藍岳,霧島山,米丸・住吉池,桜島,池田・山川の火山周辺に見られた.それ以外の地域にある酸性泉は泉温が低い傾向があった.中性泉,アルカリ性泉ともに九州・沖縄の様々な地域で見られた.
Na-Cl型は多くが海岸沿いで見られ,内陸では堆積岩層に集中して見られた.これらは海水の影響を受けた温泉であると考えられる.Na-SO₄型,Ca-SO₄型,Mg-SO₄型,Ca-HCO₃型,Mg-HCO₃型は火山周辺で見られた.これらは火山の影響を受けた温泉であると考えられる.Na-HCO₃型が九州で一番数が多く,堆積岩層,火成岩層ともに広く分布していた.Ca-Cl型は福岡市の警固断層周辺に多く見られ,警固断層を通った海水のNa⁺とCa²⁺がイオン交換されたのものだと考えられる.
(3) データベース構築の主成分分析による新しい分類法の提案
最も卓越する主成分PC1は主要溶存イオンとMn²⁺の濃度,PC2はAl³⁺,Fe²⁺,Fe³⁺の濃度,PC3では遊離炭酸ガスと溶存炭酸イオンの相反する性質,PC4はS₂O₃²⁻とHS⁻,遊離ガスの濃度を示すような結果が得られた.寄与率はPC1から順に21.93%,10.62%,8.329%,6.82%であった.主成分分析の結果により,新たな分類が可能となった.
4.まとめ
本研究では,九州地方の温泉分析書1742件のデータベースを構築した.これにより地理空間情報のビッグデータとして解析することが可能となった.地域分析により地域の地質に応じた傾向が明らかになった.断層や火山などの地殻活動に関連する違いも見出された.さらに,主成分分析によって,温泉の分類をするうえで実質的に寄与している成分を用いて分類できるようになった.これまでの主要なイオンを用いる分類と異なり,地質学的な解釈を行っていくうえで有効であると考えられる.データベースの精度向上と地球科学的な理解を深めることが今後の課題である.