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[SCG60-08] 2022年台東地震の震源近傍記録に基づいた断層破壊様式の予備的な考察
キーワード:2022年台東地震、強震動、永久変位、地表地震断層
1. はじめに
2022年9月、台湾南東部において、前震(Mw6.6)と本震(Mw6.9)が立て続けに発生した。地表に断層が出現し、台東地域における速度波形に長周期パルス(周期約4秒)が、変位波形に永久変位が記録された。このような観測記録が震源断層極近傍の複数箇所で得られたことは極めて稀である。地表に断層が現れた地震の震源特性と震源近傍地震動の関係を検討するために、まず本検討では、地表地震断層に近い観測記録を対象に予備的な分析を実施し、台東地震の断層面や破壊様式を推察した。
2. 地表地震断層と既存の活断層
既存の活断層、強震観測点、地表地震断層の位置をFig. 1に示す。Central Geological Survey(2022)により、不連続であるが、縦谷(池上)断層沿いに約67km、さらに玉里断層沿いに14km、またその延長線上に3kmに渡って地表地震断層が確認されている。なお、いずれも前震と本震のどちらによるものかは判別されていない。池上断層は従来から東落ち傾斜の逆断層であることが認識されている。一方、中央山脈断層は西落ち傾斜の逆断層と考えられているが、明瞭な地表地震断層を認めるのは難しい。余震分布に基づくと、本震の震源は中央山脈断層沿いの深部と推測される。しかしながら、前述のとおり、地表断層は池上断層沿いに多く分布しており、断層の深部と浅部の対応の理解が難しく、台湾の専門家と様々な議論の最中である。
3. 観測記録
本震の地表記録の最大加速度PGA・最大速度PGVと地震動予測式(司・翠川, 1999)の比較をFig. 2に示す。震源付近の地域のAVS30は360~760m/s(Chen et al., 2022)であることから、司・翠川式の地盤条件は硬質地盤と仮定した。PGAは概ね司・翠川式の標準偏差以内であり、断層極近傍では500cm/s2程度で振幅の頭打ちの傾向が見られる。PGVは司・翠川式の平均と概ね対応している。震央付近の観測点G020に比べて震央から北側の観測点F073、F042、F004のPGVが大きいことから、断層北側に破壊したディレクティビティー効果が示唆される。PGAでも断層極近傍の地点において同様の傾向が認められるが、PGVのほうがより顕著である。
本震前後のGNSS記録の変位(Central Geological Survey, 2022)と本震の強震記録の永久変位に基づく変位ベクトルをFig. 3に示す。強震記録から求めた永久変位の例(EYUL)をFig. 4に示す。GNSS記録と強震記録の両方が得られている地点における両者の変位の大きさとその方位はよく一致している。震央付近とその南側の観測点で断層走向方向の最大約1mの水平変位が記録された。一方、震央から北側にかけては最大約1mの顕著な上下変位とともに、それと同程度の水平変位も記録された。今回得られた断層近傍の強震観測点の永久変位を2倍することで推定した最大断層変位に基づけば、地震モーメントと最大断層変位の関係は松田(1975)による経験則と同程度であった。
4. まとめ
2022年台東地震の震源近傍における観測記録の予備分析を行った結果、以下の知見を得た。
・地表地震断層位置と震源を含めた余震分布が一致しない。
・PGAとPGVの距離減衰特性は概ね平均的である。
・断層南側は水平変位が卓越している。一方、断層北側は上下・水平変位ともに卓越し、複雑な断層すべりであったことが推察される。
・断層近傍の強震観測点の永久変位から推定される断層変位は経験則と同程度である。
今後、本震(Mw6.9)を対象に、これまでに得られた断層情報とともに地震動記録の極性分布等に基づいて断層面を仮定し、震源インバージョン解析や経験的グリーン関数法を用いたSMGAのモデリングを行うことで、広帯域地震動に着目した震源特性について検討する予定である。
2022年9月、台湾南東部において、前震(Mw6.6)と本震(Mw6.9)が立て続けに発生した。地表に断層が出現し、台東地域における速度波形に長周期パルス(周期約4秒)が、変位波形に永久変位が記録された。このような観測記録が震源断層極近傍の複数箇所で得られたことは極めて稀である。地表に断層が現れた地震の震源特性と震源近傍地震動の関係を検討するために、まず本検討では、地表地震断層に近い観測記録を対象に予備的な分析を実施し、台東地震の断層面や破壊様式を推察した。
2. 地表地震断層と既存の活断層
既存の活断層、強震観測点、地表地震断層の位置をFig. 1に示す。Central Geological Survey(2022)により、不連続であるが、縦谷(池上)断層沿いに約67km、さらに玉里断層沿いに14km、またその延長線上に3kmに渡って地表地震断層が確認されている。なお、いずれも前震と本震のどちらによるものかは判別されていない。池上断層は従来から東落ち傾斜の逆断層であることが認識されている。一方、中央山脈断層は西落ち傾斜の逆断層と考えられているが、明瞭な地表地震断層を認めるのは難しい。余震分布に基づくと、本震の震源は中央山脈断層沿いの深部と推測される。しかしながら、前述のとおり、地表断層は池上断層沿いに多く分布しており、断層の深部と浅部の対応の理解が難しく、台湾の専門家と様々な議論の最中である。
3. 観測記録
本震の地表記録の最大加速度PGA・最大速度PGVと地震動予測式(司・翠川, 1999)の比較をFig. 2に示す。震源付近の地域のAVS30は360~760m/s(Chen et al., 2022)であることから、司・翠川式の地盤条件は硬質地盤と仮定した。PGAは概ね司・翠川式の標準偏差以内であり、断層極近傍では500cm/s2程度で振幅の頭打ちの傾向が見られる。PGVは司・翠川式の平均と概ね対応している。震央付近の観測点G020に比べて震央から北側の観測点F073、F042、F004のPGVが大きいことから、断層北側に破壊したディレクティビティー効果が示唆される。PGAでも断層極近傍の地点において同様の傾向が認められるが、PGVのほうがより顕著である。
本震前後のGNSS記録の変位(Central Geological Survey, 2022)と本震の強震記録の永久変位に基づく変位ベクトルをFig. 3に示す。強震記録から求めた永久変位の例(EYUL)をFig. 4に示す。GNSS記録と強震記録の両方が得られている地点における両者の変位の大きさとその方位はよく一致している。震央付近とその南側の観測点で断層走向方向の最大約1mの水平変位が記録された。一方、震央から北側にかけては最大約1mの顕著な上下変位とともに、それと同程度の水平変位も記録された。今回得られた断層近傍の強震観測点の永久変位を2倍することで推定した最大断層変位に基づけば、地震モーメントと最大断層変位の関係は松田(1975)による経験則と同程度であった。
4. まとめ
2022年台東地震の震源近傍における観測記録の予備分析を行った結果、以下の知見を得た。
・地表地震断層位置と震源を含めた余震分布が一致しない。
・PGAとPGVの距離減衰特性は概ね平均的である。
・断層南側は水平変位が卓越している。一方、断層北側は上下・水平変位ともに卓越し、複雑な断層すべりであったことが推察される。
・断層近傍の強震観測点の永久変位から推定される断層変位は経験則と同程度である。
今後、本震(Mw6.9)を対象に、これまでに得られた断層情報とともに地震動記録の極性分布等に基づいて断層面を仮定し、震源インバージョン解析や経験的グリーン関数法を用いたSMGAのモデリングを行うことで、広帯域地震動に着目した震源特性について検討する予定である。