15:30 〜 17:00
[SCG60-P02] 不均質震源断層モデルのすべり角のばらつきの特性化
キーワード:不均質震源断層モデル、すべり角、強震動予測
震源断層を想定した強震動予測では,対象となる震源断層の位置情報の他に,断層長さ,幅,走向,傾斜,すべり角,破壊伝播速度などの様々な震源パラメータを予め仮定する必要がある.地震調査研究推進本部地震調査委員会 (2017)は震源断層を特定した地震の強震動予測手法(強震動予測レシピ)として,運動学的な震源パラメータ設定手順をとりまとめている.これらの震源パラメータの与え方には,過去の地震の解析結果を整理・分析することで得られる知見が取り入れられている.例えば,断層面積,アスペリティ面積,短周期レベルなどの地震規模に対するスケーリングについては多数の研究成果が出版されている.これらの既往研究より,各震源パラメータの平均値やそのばらつきが得られ,震源パラメータの不確実性が強震動予測結果に及ぼす影響も議論されている[例えば,山田・他 (2007),引田・他 (2015)].さらに,すべり量やすべり速度,応力降下量の空間不均質のほかにも,破壊伝播速度やすべり角などの空間不均質も強震動予測結果に影響を及ぼす[例えば,Iwaki et al. (2016)].
そこで,本研究はすべり角の不均質性に着目する.強震動予測の震源断層モデルに設定する(平均的な)すべり角は,活断層評価やプレート沈み込み方向,応力場などの情報を元に適切に与える必要がある.一方で,偶然的不確実性としてのすべり角の不均質性(揺らぎ)を与えるための明確な方法や情報については,必ずしも十分な知見が得られてはいない.地震調査委員会 (2017)においても,「すべり角を断層全体で一定にした場合には,ディレクティビティ効果が強震動予測結果に顕著に表れすぎる傾向がある」との注意が付記されているが,すべり角の空間不均質を与えるための具体的な指針については言及されていない.米国で開発された広帯域強震動予測手法の1つであるGraves and Pitarka (2010)では,すべり角の標準偏差を15度とし,von Karman型の確率分布に従って与えることを提案しているが,すべり角の標準偏差を15度とすることの根拠については不明である.
以下の手順で,日本国内の地震を対象とした震源インバージョン解析結果を収集し,すべり角の標準偏差を分析した.本検討で収集対象としたモデルは,SRCMOD[Mai and Thingbaijam (2014)]または国立研究開発法人防災科学技術研究所のデータベースからデジタルデータが一般公開されているものとした.このうち,震源インバージョン解析に強震波形記録が用いられ,かつ,各要素断層のすべり角のデータがデータベースで公開されている震源モデルを解析対象とした.2023年1月末時点で収集できたデータは28地震の36震源モデルである.内訳は,地殻内地震16地震23モデル,プレート境界地震11地震12モデル,スラブ内地震1地震1モデルである.これらの地震のモーメントマグニチュードの範囲は5.6~9.1である.
すべり角は[-180度, 180度)の有界区間に分布し,かつ,循環性を有する.このような角度データの標本平均や標本標準偏差を求めるためには,方向統計学(directional statistics)のうち円周統計学(circular statistics)の手法を用いる必要がある[例えば,清水 (2006, 2018),新井 (2011)].まず,各要素断層のすべり角をベクトルとして考え,すべり量で重み付け平均することで,平均合成ベクトルを得る.平均合成ベクトル長Rから,標準偏差は(-2 log R)^0.5で与えられる.ただし,すべり角の異なる複数の断層セグメントによって構成されている震源モデルについては,断層セグメント毎にすべり角の平均及び標準偏差を推定した.例えば,Asano and Iwata (2016)による2016年熊本地震(本震)の震源モデルの場合,日奈久断層に対応するセグメントは平均すべり角-164度,標準偏差14度であり,布田川断層に対応するセグメントは平均すべり角-141度,標準偏差19度となった.
全地震のすべり角の標準偏差の平均値は20度±5度となった.地震タイプごとに区別した場合,地殻内地震21度±5度,プレート境界地震18度±5度であり,明確な違いは見られない.データセットに含まれるモデル数がそれほど多いわけでもないので,現時点では,全地震の標準偏差の平均値である20度をすべり角の不均質の程度として与えるのがよいと考えられる.
謝辞:SRCMOD及び防災科学技術研究所にて公開されている震源モデルデジタルデータを使用しました.個々の地震の解析結果を提供された全ての著者の皆様に感謝いたします.
そこで,本研究はすべり角の不均質性に着目する.強震動予測の震源断層モデルに設定する(平均的な)すべり角は,活断層評価やプレート沈み込み方向,応力場などの情報を元に適切に与える必要がある.一方で,偶然的不確実性としてのすべり角の不均質性(揺らぎ)を与えるための明確な方法や情報については,必ずしも十分な知見が得られてはいない.地震調査委員会 (2017)においても,「すべり角を断層全体で一定にした場合には,ディレクティビティ効果が強震動予測結果に顕著に表れすぎる傾向がある」との注意が付記されているが,すべり角の空間不均質を与えるための具体的な指針については言及されていない.米国で開発された広帯域強震動予測手法の1つであるGraves and Pitarka (2010)では,すべり角の標準偏差を15度とし,von Karman型の確率分布に従って与えることを提案しているが,すべり角の標準偏差を15度とすることの根拠については不明である.
以下の手順で,日本国内の地震を対象とした震源インバージョン解析結果を収集し,すべり角の標準偏差を分析した.本検討で収集対象としたモデルは,SRCMOD[Mai and Thingbaijam (2014)]または国立研究開発法人防災科学技術研究所のデータベースからデジタルデータが一般公開されているものとした.このうち,震源インバージョン解析に強震波形記録が用いられ,かつ,各要素断層のすべり角のデータがデータベースで公開されている震源モデルを解析対象とした.2023年1月末時点で収集できたデータは28地震の36震源モデルである.内訳は,地殻内地震16地震23モデル,プレート境界地震11地震12モデル,スラブ内地震1地震1モデルである.これらの地震のモーメントマグニチュードの範囲は5.6~9.1である.
すべり角は[-180度, 180度)の有界区間に分布し,かつ,循環性を有する.このような角度データの標本平均や標本標準偏差を求めるためには,方向統計学(directional statistics)のうち円周統計学(circular statistics)の手法を用いる必要がある[例えば,清水 (2006, 2018),新井 (2011)].まず,各要素断層のすべり角をベクトルとして考え,すべり量で重み付け平均することで,平均合成ベクトルを得る.平均合成ベクトル長Rから,標準偏差は(-2 log R)^0.5で与えられる.ただし,すべり角の異なる複数の断層セグメントによって構成されている震源モデルについては,断層セグメント毎にすべり角の平均及び標準偏差を推定した.例えば,Asano and Iwata (2016)による2016年熊本地震(本震)の震源モデルの場合,日奈久断層に対応するセグメントは平均すべり角-164度,標準偏差14度であり,布田川断層に対応するセグメントは平均すべり角-141度,標準偏差19度となった.
全地震のすべり角の標準偏差の平均値は20度±5度となった.地震タイプごとに区別した場合,地殻内地震21度±5度,プレート境界地震18度±5度であり,明確な違いは見られない.データセットに含まれるモデル数がそれほど多いわけでもないので,現時点では,全地震の標準偏差の平均値である20度をすべり角の不均質の程度として与えるのがよいと考えられる.
謝辞:SRCMOD及び防災科学技術研究所にて公開されている震源モデルデジタルデータを使用しました.個々の地震の解析結果を提供された全ての著者の皆様に感謝いたします.