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[SCG62-P03] 統合地震探査による関東地域の地殻構造と形成プロセス
キーワード:地殻構造、統合地震探査、スラブ形状、フィリピン海プレート、関東地域
はじめに: 関東地域では、太平洋プレート(PAC)の上にフィリピン海プレート(PHS)が沈み込むという特異なテクトニクスが進行している。2001年以降、大規模な地殻構造調査や地震観測により、PHS上面の形状を含め地殻上部までの構造が明らかになってきた。ここでは、地殻構造の概要と、それらの構造を生み出したテクトニックな要因について述べる。
フィリピン海プレートの上面形状: 通常プレート境界面は固着しており、地震活動のみでプレート境界を推定することは難しい。このため、深部反射法地震探査や稠密自然地震観測によるレシーバー関数解析などの解析方法を取り入れて、9測線において比較的浅部に位置するPHSプレート上面のイメージングにつとめた。多数の測線においてフィリピン海プレート上面からの反射面が捉えられ、従来の推定よりもかなり浅い深度に位置することが明らかになった[1]。関東山地から甲府盆地に至る地域では、PHS上面はNNW-SSE方向のリッジ状の形状をなす。この東翼では緩傾斜であるが、西翼では傾斜を増大させ、甲府盆地の曽根丘陵下では、PHSからの反射面群が深さ40 kmまで追跡される[2]。このリッジ状の背斜軸跡は1923年関東地震の震源の西端と一致し、震源断層の形状を規制している。駿河湾と相模湾において実施した地殻構造探査によって得られたPHS上面の形状は、伊豆衝突帯の東側が緩傾斜で西側では傾斜が増大する。こうした非対称な形状は、関東山地下の特徴と共通する。甲府盆地で確認されたPHS上面は、浮揚性沈み込みにより地殻上部が剥ぎ取られた伊豆-小笠原弧の中部地殻に相当する。PHS上面深度は南アルプス下で推定されるものより有意に深く、連続性については更なる検討が必要である。
地殻構造の特徴: 関東平野の堆積盆地は、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う葉山-嶺岡隆起帯の背後に形成され、最大層厚は川崎沖の東京湾で6 kmに及んでいる。葉山-嶺岡隆起帯下のP波速度構造は、関東平野下の先新第三系の岩石に比べて低下し、付加体としての形成プロセスを反映してP波速度4〜5 km/s程度の厚い一様な速度構造を示し、地震基盤は葉山-嶺岡隆起帯下では大きく低下する。三浦-房総半島のメガスラストの先端部には、付加作用によって形成された厚い低速度域が発達するのに比べ、駿河トラフでのメガスラスト先端部の低速度域は、小規模である。
関東平野北西部や鬼怒川低地帯にかけて、負のブーゲ異常域が形成されている。この領域では厚い中新世の堆積物が分布するが、逆に地震波トモグラフィーから得られるP波速度構造では下部地殻の速度が増大している(3)。こうした特徴は、北部フォッサマグナ〜新潟の中絶リフトと共通しており、日本海形成-拡大期の地殻スケールのネッキングと、苦鉄質岩の中下部地殻への迸入によって形成されたものと推定される。新潟-北部フォッサマグナのリフト縁辺では、リフトの外側に傾斜する断層が形成されている。活断層である深谷断層も、類似の特徴を有している可能性が高い。関東平野周辺の中央構造線については、北傾斜の断層としての再活動は不明確で、日本海拡大期に大きな改変を受けたことを示している。
関東地域の構造とテクトニクス: 関東地域の構造に大きな影響を及ぼしたテクトニックプロセスは、日本海拡大期の関東平野北部下での大規模な右横ずれ運動を伴うリィフテング、15Ma以降のPHSの北北西進に伴う駿河・相模トラフでの沈み込みと伊豆衝突帯での浮揚性沈み込み、1 Ma以降のPHSの西北西方向への運動方向の変化[4]などがある。この運動方向の変化は、伊豆衝突帯西側での地殻の短縮量の増大や駿河トラフにおけるPHSスラブの傾斜角の増加、房総半島における沈降-隆起域の変化が生じている。
文献 [1]Sato, H. et al., Science, 309 (5737), 462-464, 2005. [2]佐藤比呂志,首都直下地震防災・減災特別 プロジェクト 総括成果報告書, 15-24, 2012.[3]Matsubara, M. et al., Tectonophysics, 710-711, 97-107, 2017. [4] Hashima, A. et al., Tectonophys., 679, 1-14, doi: 10.1016/j.tecto.2016.04.005, 2016.
フィリピン海プレートの上面形状: 通常プレート境界面は固着しており、地震活動のみでプレート境界を推定することは難しい。このため、深部反射法地震探査や稠密自然地震観測によるレシーバー関数解析などの解析方法を取り入れて、9測線において比較的浅部に位置するPHSプレート上面のイメージングにつとめた。多数の測線においてフィリピン海プレート上面からの反射面が捉えられ、従来の推定よりもかなり浅い深度に位置することが明らかになった[1]。関東山地から甲府盆地に至る地域では、PHS上面はNNW-SSE方向のリッジ状の形状をなす。この東翼では緩傾斜であるが、西翼では傾斜を増大させ、甲府盆地の曽根丘陵下では、PHSからの反射面群が深さ40 kmまで追跡される[2]。このリッジ状の背斜軸跡は1923年関東地震の震源の西端と一致し、震源断層の形状を規制している。駿河湾と相模湾において実施した地殻構造探査によって得られたPHS上面の形状は、伊豆衝突帯の東側が緩傾斜で西側では傾斜が増大する。こうした非対称な形状は、関東山地下の特徴と共通する。甲府盆地で確認されたPHS上面は、浮揚性沈み込みにより地殻上部が剥ぎ取られた伊豆-小笠原弧の中部地殻に相当する。PHS上面深度は南アルプス下で推定されるものより有意に深く、連続性については更なる検討が必要である。
地殻構造の特徴: 関東平野の堆積盆地は、フィリピン海プレートの沈み込みに伴う葉山-嶺岡隆起帯の背後に形成され、最大層厚は川崎沖の東京湾で6 kmに及んでいる。葉山-嶺岡隆起帯下のP波速度構造は、関東平野下の先新第三系の岩石に比べて低下し、付加体としての形成プロセスを反映してP波速度4〜5 km/s程度の厚い一様な速度構造を示し、地震基盤は葉山-嶺岡隆起帯下では大きく低下する。三浦-房総半島のメガスラストの先端部には、付加作用によって形成された厚い低速度域が発達するのに比べ、駿河トラフでのメガスラスト先端部の低速度域は、小規模である。
関東平野北西部や鬼怒川低地帯にかけて、負のブーゲ異常域が形成されている。この領域では厚い中新世の堆積物が分布するが、逆に地震波トモグラフィーから得られるP波速度構造では下部地殻の速度が増大している(3)。こうした特徴は、北部フォッサマグナ〜新潟の中絶リフトと共通しており、日本海形成-拡大期の地殻スケールのネッキングと、苦鉄質岩の中下部地殻への迸入によって形成されたものと推定される。新潟-北部フォッサマグナのリフト縁辺では、リフトの外側に傾斜する断層が形成されている。活断層である深谷断層も、類似の特徴を有している可能性が高い。関東平野周辺の中央構造線については、北傾斜の断層としての再活動は不明確で、日本海拡大期に大きな改変を受けたことを示している。
関東地域の構造とテクトニクス: 関東地域の構造に大きな影響を及ぼしたテクトニックプロセスは、日本海拡大期の関東平野北部下での大規模な右横ずれ運動を伴うリィフテング、15Ma以降のPHSの北北西進に伴う駿河・相模トラフでの沈み込みと伊豆衝突帯での浮揚性沈み込み、1 Ma以降のPHSの西北西方向への運動方向の変化[4]などがある。この運動方向の変化は、伊豆衝突帯西側での地殻の短縮量の増大や駿河トラフにおけるPHSスラブの傾斜角の増加、房総半島における沈降-隆起域の変化が生じている。
文献 [1]Sato, H. et al., Science, 309 (5737), 462-464, 2005. [2]佐藤比呂志,首都直下地震防災・減災特別 プロジェクト 総括成果報告書, 15-24, 2012.[3]Matsubara, M. et al., Tectonophysics, 710-711, 97-107, 2017. [4] Hashima, A. et al., Tectonophys., 679, 1-14, doi: 10.1016/j.tecto.2016.04.005, 2016.