日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 沈み込み帯へのインプット:海洋プレートの進化と不均質

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:藤江 剛(海洋研究開発機構)、平野 直人(東北大学東北アジア研究センター)、鹿児島 渉悟(富山大学)、赤松 祐哉(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:鹿児島 渉悟(富山大学)、藤江 剛(海洋研究開発機構)

10:45 〜 11:00

[SCG63-06] 南海トラフにおける沈み込むプレート粗地形の前縁付加体変形と浅部低周波地震への影響

*木村 学1白石 和也1中村 恭之1小平 秀一1藤江 剛1 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構)

キーワード:付加体、南海トラフ、沈み込み帯、低周波地震

南海トラフ前弧域は、発達する付加体とその直下で発生する浅部スロー地震・微動で特徴づけられる。最近の反射法地震探査をはじめとする集中的観測は、プレート境界と付加体の物性と形状・構造が地域的に多様であることを明らかにしつつある。本研究では、紀伊半島沖潮岬海底谷近傍の南海トラフおよび外側ウェッジの付加体と構造に注目した。特に沈み込むフィリピン海プレート地殻上面の比高数百m〜1km、波長数km程度の凹凸地形が、デコルマ面の凹凸、そして付加体内部の構造に直接的な影響を与えている実態を報告し、これまで多く議論されてきた平滑なデコルマ面上に形成される付加体との違いを示す。合わせてそれらの浅部スロー地震・微動との関係を論ずる。
海溝の走向に直交した方向で得られた反射断面KR02-11 D1(添付図)は、変形フロント直下のフィリピン海プレート上に地塁状凸地形があることを示している。この地塁の陸側端は、前縁スラストが、四国海盆堆積物中に層平行に発達したデコルマから立ち上がる位置に一致している。地塁の上面に平行に初生的なデコルマが認められる(図の赤破線)。前縁スラストと初生デコルマの間には、初生デコルマから上方へ続く小逆断層群が発達している。前縁スラストの下盤となる海溝充填堆積層は、透明な反射特性を示す。
前縁スラストの上盤は、海溝側が削られた背斜構造を示す(図の①)。背斜上面の海底地形は、南海トラフの海溝底から比高~375m 程度の高まりをなす。層に平行なデコルマは変形フロントから10 kmほど北側に続く。そしてその上に、前縁から2番目の海底の凸地形(図の②)が形成されている。この部分の付加体の内部構造は前縁部に比べ不鮮明であるが、その海側はデコルマ面から分岐する陸側傾斜のスラスト群の発達によって特徴づけられる。①と②の間には、傾斜不整合で重なる斜面堆積盆地がある。この盆地は、①側に傾斜しながら尖滅、②側に層厚を増しながら褶曲・スラストに巻き込まれるという典型的な堆積同時変形の産状を示す。
以上の観測を、この地域のプレートテクトニクスモデル(NNR-MORVEL56)に沿って解釈する。この地域の相対運動(約300°方向、~ 6cm/年)の断面方向の成分は、~5.2 cm/年である。フィリピン海プレート上の地塁をこの速度によって過去に戻すと地塁北端は、約7万年前には現在の変形フロントの下まで戻る。付加体の①の背斜構造と前縁スラストの形成は、この地塁が変形フロントでデコルマを持ち上げ分岐することから開始した見なすことができる。7万年間に①の海底面は、~375 m隆起したと見なせる。これは平均で5.3 mm/年以上となる。ちなみにヒマラヤ山脈の隆起速度は数mm/年である。
この地点は、潮岬海底谷の東側に特徴づけられる浅部スロー地震・微動群の西部に位置し、変形フロント付近に至るスロー地震と微動が観測されている。また、熊野沖南海付加体では、掘削による断層岩分析によって、前縁スラストが、低速すべりに重複して、かつて高速で滑り抜け、それが津波を起こし得たことが報告されている。隆起収束の平均速度が巨大地震とスロー地震・すべりなどの間でどのように時空間的に分配されているのか関心のもたれるところである。