日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 沈み込み帯へのインプット:海洋プレートの進化と不均質

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:藤江 剛(海洋研究開発機構)、平野 直人(東北大学東北アジア研究センター)、鹿児島 渉悟(富山大学)、赤松 祐哉(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[SCG63-P04] 福徳岡ノ場から噴出した2021年および1986年軽石の岩石学的・地球化学的特徴からみえるスラブウィンドウの影響

*相澤 正隆1、米盛 航平1、崎山 華菜1土岐 知弘1,2、廣渡 藍之1、宋 科翰1佐藤 初洋3伴 雅雄3高畑 直人4佐野 有司5新城 竜一1,2 (1.琉球大学理学部、2.総合地球環境学研究所、3.山形大学理学部、4.東京大学大気海洋研究所、5.高知大学海洋コア総合センター)

キーワード:福徳岡ノ場、伊豆-小笠原-マリアナ弧、アルカリ岩、海洋性地殻、スラブウィンドウ

小笠原諸島の福徳岡ノ場(N24°17' 16", E141°28' 55")にて2021年8月13日に開始した噴火では,大量の軽石ラフトが形成され,同年10月上旬以降に琉球列島など南西諸島へ漂着を開始した。福徳岡ノ場火山(以下FOB)では,1904年以降活発な海底火山活動が記録されており,中でも1986年の噴火では,2021年と同様に南西諸島への軽石漂着をもたらした(加藤, 1988)。本研究では,2021年~2022年にかけて,沖縄県内および鹿児島県与論島に漂着したFOB軽石,ならびに琉球大学理学部地学系に保管されていた1986年噴火に伴うFOB軽石を用い,岩石学的・地球化学的検討を行った。
2021年のFOB軽石は,大きく分けて,白色~灰色を示すタイプ(以下,白色軽石),黒色~暗褐色を示すタイプ(黒色軽石),および両者が混交しているタイプに分けられる。白色軽石では,いわゆる「チョコチップ」と呼ばれる暗色包有物が点在することが大きな特徴である。1986年のFOB軽石は,白色軽石と黒色軽石が保管されていた。両タイプともに暗色包有物を含んでいる点において,2021年の黒色軽石とやや異なる。見かけ密度は,白色軽石に比べて黒色軽石の方がやや大きく,また,2021年軽石に比べ1986年軽石の方がやや大きい。
斑晶鉱物組み合わせは,2021年,1986年軽石ともに,かんらん石,単斜輝石,斜長石,および少量のアパタイトと不透明鉱物からなる。いずれも,大部分は低Fo値のかんらん石,低Mg値の普通輝石,低An値の斜長石であるが,一部,Fo85–92のかんらん石,高Mg値の透輝石,An94に達する斜長石が確認された。不透明鉱物は多くが磁鉄鉱ないし磁硫鉄鉱であるが,高Fo値のかんらん石中にはクロムスピネルが稀に認められる。2021年,1986年軽石ともに,白色軽石と黒色軽石間で,鉱物組み合わせおよび斑晶鉱物化学組成の違いは認められない。一方,石基ガラスは,白色軽石では無色,黒色軽石では暗灰色を呈する。黒色軽石は磁石につきやすく(佐藤ほか, 2022),ガラス中に晶出している微細な磁鉄鉱が肉眼的色調の違いに起因していることが指摘されている(Yoshida et al., 2022)。

以上の鉱物化学組成の特徴から,2021年と1986年の噴火は同じマグマ溜まりから発生し,35年間では特に顕著なマグマ分化は生じていないと考えられる。全岩化学組成でも,2021年軽石および1986年軽石において,白色・黒色軽石ともにかなり均質な粗面岩組成を示す。ただし,恐らく石基ガラスの磁鉄鉱量の違いを反映して,黒色軽石の方が若干高いFeO*量を有する。また,1986年軽石に含まれる暗色包有物,および有色鉱物中の苦鉄質ガラス包有物は,玄武岩,玄武岩質安山岩,玄武岩質粗面安山岩組成を有することから(加藤, 1988; Yoshida et al., 2022),FOBマグマは中間質組成を欠くバイモーダルな組成分布を示す。このようなバイモーダル分布は背弧海盆の拡大期などにもみられ,マントル起源の玄武岩質マグマが地殻を部分融解させたことにより生じたと解釈される。かんらん石および単斜輝石から得られたHe同位体比でも,地殻成分の混入率がやや高い傾向を示す。
N-MORBで規格化した不適合元素パターンは,2021年,1986年軽石ともに,LIL元素に富みHFS元素に枯渇した沈み込み帯火山岩の特徴を示す。全体的に高い規格化濃度を示すものの,HFS元素濃度比はN-MORBに類似する。伊豆弧の火山フロント側火山ではTh/Ybは低いのに対し,FOB軽石では高いTh/Ybを有し,スラブ由来流体は堆積物成分の寄与が大きいことが示唆される。Sr-Nd同位体組成をみるとDMMに近い位置にプロットされ,マントル列からやや低Nd同位体側に組成が広がる。Pb同位体組成では太平洋プレート上の海底堆積物の組成に極めて近いことも,堆積物成分の寄与を支持する。
一方,Nd-Hf同位体組成は,伊豆弧火山フロントと海洋底堆積物の中間的な位置で,いずれもIndian MORBとPacific MORBの境界付近にプロットされた。FOB地域周辺の直下では,沈み込んだ太平洋スラブがマントル遷移層内で裂けて,スラブウィンドウが形成されている可能性が指摘されている(Zhang et al., 2019)。発表では,このことが各種の地球化学的特徴にどのような影響を及ぼしたのか検討する。

引用文献
加藤祐三, 1988, 火山, 33, 21-30.
佐藤隆春・岡本義雄・村田千弥, 2022, Nature Study, 68, 16-17.
Yoshida, K., Tamura, Y., Sato, T., Hanyu, T., Usui, Y., Chang, Q., Ono, S., 2022, Island Arc, 31: e12441.
Zhang, H., Wang, F., Myhill, R., Guo, H., 2019, Nature Communications, 10:1310.