日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 沈み込み帯へのインプット:海洋プレートの進化と不均質

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:藤江 剛(海洋研究開発機構)、平野 直人(東北大学東北アジア研究センター)、鹿児島 渉悟(富山大学)、赤松 祐哉(国立研究開発法人海洋研究開発機構)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[SCG63-P05] 日本海溝に沿った底層流による堆積作用の発見とその意義:収束型境界における急速な堆積・浸食プロセスの考察

*池田 尚史1川村 喜一郎1 (1.山口大学)


キーワード:コンターライト、底層流、収束型境界

コンターライトは、底層流の作用によって堆積、再堆積した堆積物である (Stow et al., 2002)。この堆積物は、半連続的な堆積プロセスと比較的高い堆積速度によって高解像度の堆積記録を有する。そのため、古海洋、古気候解析に重要な堆積物の一つとして、深層水の沈み込みと関連した発散型境界縁辺で研究の対象とされてきた (Rebesco et al., 2014)。また、Nicholson et al. (2020) による近年の研究では、淘汰の良い細粒の堆積物と斜面に平行な堆積構造を有するコンターライト・ドリフトの不安定性が津波を誘発する地すべりの発生メカニズムに関与することを示唆した。この研究は、これまであまり調査のされてこなかった収束型境界縁辺におけるコンターライト研究の重要性を指摘している。発散型境界とは構成粒子や地形的特徴の異なる収束型境界縁辺において、新たなコンターライト・ドリフトの発見や堆積プロセスの解明は、近年のコンターライト研究における課題の一つである。
収束型境界にあたる日本海溝、千島海溝縁辺には、海溝外側斜面に沿って下部周極深層水 (LCDW) に由来する北向きの底層流が流れる (Ando et al., 2013)。しかし、これらの海域では底層流の作用を受け堆積したコンターライトが発見されていない。そこで、本研究では日本海溝、千島海溝縁辺の海洋プレート側において、コンターライト・ドリフトの発見を目的としたピストンコア試料の観察、分析と反射法地震探査断面の解釈を行った。本発表では、学術研究船「白鳳丸」によるKH-20-8次航海において、日本海溝に沈み込む太平洋プレート上に発達したグラーベン構造内、東経144度53分、北緯39度24分で採取されたPC01試料を用いた堆積プロセスの検討を行う。
底層流は、粒子を選択的に堆積させることが知られている。乱流状態の粘性流体と海底面の間に摩擦が生じることで、鉛直方向上向きのせん断応力が沈降する粒子に対する抗力として作用するためである。そのためコンターライトは、底層流の作用を受けることで、流速増加期には上方粗粒化構造、流速減少期には上方細粒化構造を発達させる。このような、同一層準内での傾向的な粒径変化は、Sortable Siltと呼ばれる10 - 63 µm分画の粒子に顕著に表れる (McCave, 1995)。
そこで、KH-20-8 PC01試料について2 cmごとに行った粒度分析の結果を用いた、Sortable Silt平均粒径の算出と命名法による粒度分布の分類から、粒径に基づく堆積相の識別と堆積プロセスの検討を行った。
その結果、KH-20-8 PC01試料の堆積物について、8 - 20 µmにモード径を持った一峰性の粒度分布によって特徴づけられる「珪質砕屑性コンターライト相」と、18 - 30 µmにモード径を持った尖度が低い一峰性、または二峰性の粒度分布によって特徴づけられる「火山砕屑性コンターライト相」が識別された。
これらの堆積相では、上方粗粒化・上方細粒化構造に対応したSortable Silt平均粒径の増加・減少が顕著であった。また、粒度分布はモード径の増加に伴い歪度がより減少し、モード径の減少に伴い歪度がより増加した。これらの特徴は、過去のコンターライト研究 (e.g. Brackenridge et al., 2018) でも報告されている。一方で、本試料のSortable Silt平均粒径は、同様の流速を持つ大西洋の底層流によって堆積したコンターライトのSortable Silt平均粒径に比べて高い値を示した。これは、底層流に対して障害となる海山やプチスポット、ホルスト・グラーベンのような起伏を持つ地形による流軸の局所的な変化、淘汰作用の影響を受けない粗粒な火山砕屑物の鉛直方からの堆積によるSortable Silt平均粒径の見かけの増加に起因することが考えられる。
本研究では、日本海溝、千島海溝縁辺に堆積するコンターライトの存在を明らかにした。しかし、その堆積プロセスや堆積構造に関する理解は不十分なままである。今後、地形判読や火山砕屑物を用いた室内実験を行い、これらの地域の深海堆積物に関する知見を深め、収束型境界縁辺におけるコンターライトの理解に寄与していく予定である。

引用文献: Stow, DAV, et al. (2002) Geol. Soc. Lond. Mem.; Rebesco, M. et al. (2014) Mar. Geol.; Nicholson, U, et al. (2020) Mar. Geol.; Ando, K, et al. (2013) J Oceanogr.; McCave, I. N. (2008) Developments in Sedimentology.; Brackenridge, RE., et al. (2018) Sed.