日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM15] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:吉村 由多加(九州大学大学院比較社会文化研究院)、臼井 洋一(金沢大学)、座長:吉村 由多加(九州大学大学院比較社会文化研究院)、加藤 千恵(九州大学比較社会文化研究院)、北原 優(九州大学 大学院 比較社会文化研究院)


10:45 〜 11:00

[SEM15-06] 水月湖年縞堆積物の更新世末期の短期地磁気エクスカーション

田辺 祥汰1、*兵頭 政幸1,2中川 毅3北場 育子3、三木 雅子1Bradak Balazs4山崎 彬輝5北川 淳子6、Suigetsu 2014 Project Members (1.神戸大学大学院 理学研究科、2.神戸大学 内海域環境教育研究センター、3.立命館大学 古気候学研究センター、4.神戸大学 海洋政策科学部、5.福井県立里山里海湖研究所、6.福井県立年縞博物館)

キーワード:双極子磁場、水月湖年縞堆積物、仮想地磁気極のクラスター、天池エクスカーション、イントカル20

地磁気エクスカーションは主に双極子磁場の短期変動を表している可能性が高い。最近報告された水月湖年縞堆積物の高解像度古地磁気記録によると、ラシャンエクスカーションは期間が18~88年の5つの大規模方向振動イベントから成る。そして、その仮想地磁気極(VGP)は南北両半球対称の4か所にクラスターを作り、世界中の火山岩に記録されたラシャンエクスカーションのVGPはそのどれかに入る。つまり、同エクスカーションの期間中双極子磁場が卓越していたことを示唆する。今後、新たに100年以下のエクスカーションが多数発見され、双極子磁場の10年スケール変動が解明されることが期待される。 
 本研究では、多数の14C年代と年縞カウントによる高精度年代モデルが構築されている水月湖年縞堆積物のコア試料を用いて、15~20 cal kyr BPの範囲の古地磁気分析を行った。キューブ試料の段階熱消磁とLチャネル試料の段階交流消磁による2つの古地磁気データセットは、一致して3つの深度に短期の地磁気エクスカーションが起こったことを明らかにした。そのうち、中心年代が約17.3 IntCal20 cal kyr BP、期間150年のエクスカーションは唯一逆転磁場を含む。VGPはシベリア高緯度からNZ周辺~南極大陸間の海域に40年以内に移動してそこに約100年滞在し(クラスターを作り)、アラビア半島経由で北半球高緯度に40年以内に戻る。同VGPパスは、中国長白山天池火山の2枚の溶岩(年代未確定)が記録したTianchi (天池)エクスカーションのVGPの上を通る。2枚のうち下位溶岩は初期に、上位溶岩はその110年後の中~後期に対比できる。このことから同エクスカーションはTianchiエクスカーションの全容をとらえ、同時に2枚の溶岩にIntCal20年代を与えることができたと考える。他の二つはTianchiエクスカーションの2700年前と2000年後に起こった、それぞれ期間80年と260年のエクスカーションである。どちらも、VGPの南下は赤道あたりまでであった。前者はVGPの束縛経度帯(東部アフリカ、太平洋)や移動速度などラシャンエクスカーションに類似している。一方、後者はラシャンエクスカーションとは異なる経度帯でVGPが時計回り回転を示す。したがって発生磁場源は異なる可能性がある。水月湖で見つかった3つのエクスカーションは、さらに、韓国済州島の地層で見つかった更新世末期のエクスカーションの一部ともVGPが一致することから、少なくとも東アジア地域で観測できるエクスカーションであるといえる。