日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC37] Volatiles in the Earth - from Surface to Deep Mantle

2023年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:羽生 毅(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、Tomonaga Yama(University of Basel)、角野 浩史(東京大学先端科学技術研究センター)、佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、座長:佐野 有司(高知大学海洋コア総合研究センター)、羽生 毅(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

15:45 〜 16:00

[SGC37-07] グリーンランド西部の超苦鉄質岩中の流体/メルト包有物の希ガス分析から探る太古代マントルの交代作用

*福島 菜奈絵1角野 浩史2森下 知晃3、Guotana Juan Miguel4、西尾 郁也4谷 健一郎5、Waterton Pedro6、Szilas Kristoffer6沢田 輝8村山 雅史7 (1.東京大学大学院総合文化研究科、2.東京大学先端科学技術研究センター、3.金沢大学理工研究域地球社会基盤学系、4.金沢大学自然科学研究科、5.国立科学博物館地学研究部、6.University of Copenhagen、7.高知大学農林海洋科学部海洋資源科学科、8.海洋研究開発機構)


キーワード:希ガス、太古代、イスア、グリーンランド、マントル、超苦鉄質岩

【はじめに】海洋プレートの沈み込み開始以降,大気海洋に含まれる揮発性成分がマントルへと輸送されることにより,マントル・大気・海洋等のリザーバの揮発性元素組成は改変されてきた。始原的マントルの揮発性元素組成の決定および当時の交代作用が起きた環境の制約は重要な課題である。本研究では,グリーンランド西部に産する太古代の超苦鉄質岩の希ガス分析により,変成作用や蛇紋岩化等の変質の影響を評価した上で,この課題に取り組む。
【地質学的背景と試料記載】グリーンランド西部に位置するISB (Isua Supracrustal Belt)およびUN (Ujaragssuit nunãt)地域に産する地球最古級の地質体からそれぞれ採取したカンラン岩とクロミタイトを対象とした。ISBは全長約30km,幅4kmのアーチ状の地質帯で[1],南部テレーン(3.8Ga)と北部テレーン(3.7Ga)から構成されている [2]。北部テレーンには数m~数100m規模の超苦鉄質岩体が産し,その中に”Lens A, B”と呼ばれる主にダナイトから成る岩体が産する [3]。両者は蛇紋岩化等の各々異なる複雑な変成履歴をもつ[例えば4,5]。UN地域はISBから約20km南東に位置し,3.8Gaの縞状片麻岩中に超苦鉄質岩体が数m~数百mのレンズ状に分布している [6]。超苦鉄質岩体中に産するクロミタイトは,3.75Gaと2.8Gaに変成を受けており[7]、その起源は未だによくわかっていない。いずれの試料も数μ-数百μmの流体/メルト包有物を含むことが光学顕微鏡観察及びマイクロフォーカスX線CTスキャナで確認された。
【結果】ISBのダナイトとUN岩体のクロミタイトからそれぞれ分離したオリビンとクロマイトを対象に,希ガス(He, Ne, Ar, Kr, Xe)同位体比を分析した。試料からの希ガス抽出は鉱物中の流体包有物から抽出することを目的とし,主に段階破砕法を用いた。全ての試料の希ガス同位体比 (3He/4He = 0.01 - 0.4 RA40Ar/36Ar = (4.9 - 5.5)×104)より,放射壊変由来の希ガスが大量に含まれることが明らかとなった。抽出された4Heが全て鉱物中のUの放射壊変に由来すると仮定した場合に必要なU濃度は同地域の超苦鉄質岩の文献値[例えば7]よりはるかに高く,年代経過では説明できない。つまり4He濃度が高い流体/メルトが二次的に鉱物中に捕獲されたと考えられる。また4He/40Ar比は現在の地殻や対流マントルよりも高く,高いU/K比をもつリザーバに由来する可能性が示唆される。今後は流体/メルト包有物の局所希ガス分析や,照射試料の希ガス分析によるU, K濃度およびハロゲン元素組成の決定により交代作用が起きた環境の制約を目指す。