15:45 〜 16:00
[SGC38-02] 東北日本弧火山岩のMo同位体組成
キーワード:東北、沈み込み帯、Mo同位体組成、伊豆諸島
沈み込み帯は地表表層の岩石や堆積物・海水などをマントル中に再供給させる主要な場所である。沈み込んだスラブからの脱水は、地球内の物質循環を起こすだけでなく、地表の火山活動やスラブ内地震の原因とも考えられており、地球表層環境に大きな影響を与えている。これまで、沈み込み帯火山の岩石試料を用いたスラブの脱水や初生メルトの発生に関する地球化学的議論が数多く行われてきた(Tollstrup et al. 2010など)。近年、沈み込み帯の物質循環のトレーサーとして新たにMo同位体比(δ98/95Mo = (98/95Mosample / 98/95MoNIST3134 – 1) × 1000)が用いられており、多くの火山弧を対象に研究が行われている(Freymuth et al. 2015, König et al. 2016など)。我々はこれまで、ダブルスパイク法と表面電離型質量分析計 (TIMS)を組み合わせた分析により、伊豆諸島に産する玄武岩質試料のモリブデン同位体比を測定し、火山フロントの伊豆大島から背弧の新島・神津島にかけてδ98/95Mo値が減少することを示した(田村ほか, JpGU2022)。
東北日本弧は太平洋プレートとユーラシアプレートからなる伊豆諸島と隣接した火山弧である。東北日本弧は火山フロントに加えて、背弧側にも火山弧が形成されており、火山フロントから背弧にかけての地球化学的組成の変化を比較することに非常に適した地域である。そこで、本研究では東北日本弧(岩木山, 秋田駒ケ岳, 岩手山, 鳥海山, 蔵王山)の玄武岩質~安山岩質試料のMo同位体比を測定し、伊豆諸島における先行研究との比較を行った。
東北日本弧では、火山フロントの秋田駒ケ岳(0.12-1.03‰, N = 3)、岩手山(0.02-0.15‰, N = 2)から背弧の岩木山 (–0.24‰, N = 1)、鳥海山(–1.17- –1.05‰, N = 2)に向けてδ98/95Moが減少する傾向が見られた。このような火山フロントから背弧にかけてのδ98/95Moの減少は、伊豆諸島でも観察されている(田村ほか, JpGU2022)。例外的に、火山フロントに位置する蔵王山(–0.78‰, N = 1)は非常に低いδ98/95Moを示した。また、東北日本弧では、SiO2の増加とともにδ98/95Moが減少する傾向が見られた。
Voegelin et al.(2014)はエーゲ海弧、Kos島凝灰岩のMo同位体比を測定し、SiO2が51%から68%に増加するとδ98/95Moが0.2‰増加することを発見した。彼らは角閃石や黒雲母の結晶分化により、メルトが重いMo同位体に富むような分別が生じたと指摘した。一方で、秋田駒ケ岳ではSiO2が50.66%から55.68%に増加すると、δ98/95Moが1.03‰から0.12‰まで減少する。同様に伊豆大島においても、SiO2が51.53%から56.69%に増加すると、δ98/95Moが0.26‰から–0.46‰まで減少する。従って、エーゲ海弧の試料とは逆に、東北日本弧の玄武岩質安山岩や安山岩のδ98/95Moは玄武岩より低い値を示している可能性がある。火山フロントの蔵王は例外的に低いδ98/95Mo(–0.78‰)を持つが、この試料のSiO2は57.79%であり、玄武岩質マグマはより高いδ98/95Moを持っていたかもしれない。また、背弧の3試料はいずれもSiO2が56%以上であり、初生マグマのδ98/95Moを反映していないと考えられる。しかし、鳥海山の試料(SiO2 = 56.46%, δ98/95Mo = –1.17‰)は、同程度のSiO2存在度を持つ秋田駒ヶ岳の試料(SiO2 = 55.68%, δ98/95Mo = 0.12‰)と比較して明らかに低いδ98/95Mo値を持つ。従って、伊豆諸島同様、東北日本においてもプレートの沈み込み深度の増加に従って玄武岩質マグマのδ98/95Moが減少するという傾向があると考えられる。
東北日本弧は太平洋プレートとユーラシアプレートからなる伊豆諸島と隣接した火山弧である。東北日本弧は火山フロントに加えて、背弧側にも火山弧が形成されており、火山フロントから背弧にかけての地球化学的組成の変化を比較することに非常に適した地域である。そこで、本研究では東北日本弧(岩木山, 秋田駒ケ岳, 岩手山, 鳥海山, 蔵王山)の玄武岩質~安山岩質試料のMo同位体比を測定し、伊豆諸島における先行研究との比較を行った。
東北日本弧では、火山フロントの秋田駒ケ岳(0.12-1.03‰, N = 3)、岩手山(0.02-0.15‰, N = 2)から背弧の岩木山 (–0.24‰, N = 1)、鳥海山(–1.17- –1.05‰, N = 2)に向けてδ98/95Moが減少する傾向が見られた。このような火山フロントから背弧にかけてのδ98/95Moの減少は、伊豆諸島でも観察されている(田村ほか, JpGU2022)。例外的に、火山フロントに位置する蔵王山(–0.78‰, N = 1)は非常に低いδ98/95Moを示した。また、東北日本弧では、SiO2の増加とともにδ98/95Moが減少する傾向が見られた。
Voegelin et al.(2014)はエーゲ海弧、Kos島凝灰岩のMo同位体比を測定し、SiO2が51%から68%に増加するとδ98/95Moが0.2‰増加することを発見した。彼らは角閃石や黒雲母の結晶分化により、メルトが重いMo同位体に富むような分別が生じたと指摘した。一方で、秋田駒ケ岳ではSiO2が50.66%から55.68%に増加すると、δ98/95Moが1.03‰から0.12‰まで減少する。同様に伊豆大島においても、SiO2が51.53%から56.69%に増加すると、δ98/95Moが0.26‰から–0.46‰まで減少する。従って、エーゲ海弧の試料とは逆に、東北日本弧の玄武岩質安山岩や安山岩のδ98/95Moは玄武岩より低い値を示している可能性がある。火山フロントの蔵王は例外的に低いδ98/95Mo(–0.78‰)を持つが、この試料のSiO2は57.79%であり、玄武岩質マグマはより高いδ98/95Moを持っていたかもしれない。また、背弧の3試料はいずれもSiO2が56%以上であり、初生マグマのδ98/95Moを反映していないと考えられる。しかし、鳥海山の試料(SiO2 = 56.46%, δ98/95Mo = –1.17‰)は、同程度のSiO2存在度を持つ秋田駒ヶ岳の試料(SiO2 = 55.68%, δ98/95Mo = 0.12‰)と比較して明らかに低いδ98/95Mo値を持つ。従って、伊豆諸島同様、東北日本においてもプレートの沈み込み深度の増加に従って玄武岩質マグマのδ98/95Moが減少するという傾向があると考えられる。