日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC38] 固体地球化学・惑星化学

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、石川 晃(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、座長:下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、石川 晃(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

16:15 〜 16:30

[SGC38-04] 氷衛星の岩石コアにおけるリンのホスト相:コンドライトの含水高圧実験からの制約

*小木曽 哲1武田 真之介1藤井 悠里1 (1.京都大学)

キーワード:地球外生命、氷衛星、内部海、必須元素

巨大ガス惑星の氷衛星のいくつかに見つかっている液体の海洋は、有機生命体が居住可能な環境である可能性がある。氷衛星の海洋が有機生命居住可能であるためには、海洋と岩石コアの間において必須元素が循環している必要がある。我々は、必須元素の中でも特にリンの循環に着目し、氷衛星内部でのリン循環の可能性を検討する。氷衛星の岩石コアの化学組成を推定することは困難であるが、ここではコンドライト的な組成を仮定する。コンドライトはリンをP2O5として0.1wt.%の桁で含んでいる。しかし、氷衛星の岩石コアのような高圧状態でコンドライト組成の岩石中のリンがどんな相に含まれるのかは解明されていないため、氷衛星の岩石コアが海洋へのリンの供給源になり得るか否かについても不明である。そこで本研究では、氷衛星の岩石コアにおけるリンのホスト相を明らかにするため、含水条件でコンドライト組成の物質の高圧相平衡実験を行った。実験には試薬あるいは試薬と天然鉱物の粉末から作成した2種類の出発物質を用いた。いずれもCaO-FeO-MgO-Al2O3-SiO2-H2O-P2O5系でコンドライト組成を近似したものである。酸素フガシティー緩衝剤としてNi-NiOを入れたAu-Au二重カプセルに出発物質を詰め、ピストンシリンダー型装置を用いて700°C・1.0 GPaで7日間の実験を行った。実験生成物は、カンラン石、直方輝石、磁鉄鉱、緑泥石、燐灰石の極細粒な集合体から構成されていた。最も多いのはカンラン石で、50 vol.%以上を占めていた。カンラン石にはP2O5が0.5 wt.%以下の濃度で含まれていたが、他のケイ酸塩相および磁鉄鉱にはリンは全く含まれていなかった。1つの出発物質では燐灰石ではなくリン酸水素カルシウムを用いたにもかかわらず、実験生成物に燐灰石が含まれていたため、燐灰石はこの条件で安定な相であると見なすことができる。これらの結果から、コンドライト組成の物質ではこの条件下でカンラン石と燐灰石が主たるリンのホスト相であると推定できる。カンラン石と燐灰石は中性の水には溶解しないため、もし氷衛星の岩石コアでもカンラン石と燐灰石が主たるリンのホスト相であるとしたら、リンが海洋との間で循環するには、海水が強度の酸性であるか、あるいは活発な熱水活動が岩石コアの表面近くで起こっている必要がある。