14:00 〜 14:15
[SGD01-02] 2015年以降のチャンドラー極運動は再現できるか?
キーワード:地球回転、極運動、チャンドラー極運動、励起関数、大気角運動量、海洋角運動量
チャンドラー極運動は、地球の極運動のうちの1つの成分であり、大気及び海洋の質量再配分とそれらの固体地球に対する運動によって励起される地球の自由振動である、と考えられてきた (Gross, 2015)。また、観測されたチャンドラー周期は433.7 ± 1.8 days (例, Furuya and Chao, 1996)であり、これは単一で且つ時間変化しないと考えられてきた。
極運動データに、チャンドラー極運動・年周極運動・長期成分からなる3成分モデルと、チャンドラー極運動を除いた2成分のモデルをフィッティングした結果、チャンドラー極運動は2005年頃から弱くなりはじめ、2015年には殆ど消えてしまっていることが明らかになった。推定された2015年以降のチャンドラー極運動の振幅は20ミリ秒角程度であり、我々はこれを観測史上初のチャンドラー極運動の消失である、と解釈した(山口・古屋, JpGU 2022)。
この原因を探るため、気象データに基づく、2種類の既存の励起関数データを解析した。1つは、パリ天文台から提供されているNCEPの再解析データに基づく大気角運動量(AAM)及び同じ大気データで駆動されたECCOのモデルに基づく海洋角運動量(OAM) (Salstein et al., 1993)であり、もう1つはESMGFZが提供しているECMWFのデータに基づくAAM及びその大気データで駆動されたMPIOMのデータに基づくOAM及びLSDMのデータに基づく陸水角運動量(HAM) (Dobslaw et al., 2010)である。加えて本研究では、気象庁が提供している大気の再解析データである、JRA-55(Kobayashi et al., 2015)に基づいてAAMを新たに計算し、これも解析した。
チャンドラー周期を432日・Qを50と仮定して、1976年~2021年(ECCOに基づくOAMを含む場合のみ2018年迄)の励起関数を積分し、2015年以降のチャンドラー極運動が再現されるかを調べた。まず、2015年以前のチャンドラー極運動はAAMだけでは説明できず、OAMとHAMが必要である。消失の原因としてAAM・OAM・HAMの総和が偶然キャンセルする可能性、或いは全てが小さくなっている可能性等が考えられる。結果、ECMWF及びJRA-55データに基づくAAMの積分値では2015年以降、励起されるCWの推定振幅が小さくなっていたのに対し、他の励起関数の積分値では小さくなっている様子は見られなかった。この結果は、2015年以降のチャンドラー極運動の消失に大気の影響があることを示唆している。但し、2つのOAMの寄与自体が整合的ではなく、完全に説明するには海洋・陸水角運動量の寄与に関して更なる解析が必要である。積分に際し仮定するQを50以上とすると、推定されるCWの振幅は大きくなり2000年代以前では観測値に近づく一方、2015年以降では大きすぎる推定となった。一方、Q=25の仮定では2015年以降のチャンドラー極運動の消失は再現されたが、2000年代以前の振幅の観測値には不足である。どのようなQの値を仮定しても、両方を完全に再現することはできなかったが、Qの値が50以下の場合ではある程度再現でき、Q=50付近の値が適切に近いことが示唆される。また、JRA-55データに基づくAAMの積分値では、地形を考慮して計算すると、考慮しない場合より励起されるチャンドラー極運動の振幅の計算値が増加し観測値に近づく、という結果を得られた。
極運動データに、チャンドラー極運動・年周極運動・長期成分からなる3成分モデルと、チャンドラー極運動を除いた2成分のモデルをフィッティングした結果、チャンドラー極運動は2005年頃から弱くなりはじめ、2015年には殆ど消えてしまっていることが明らかになった。推定された2015年以降のチャンドラー極運動の振幅は20ミリ秒角程度であり、我々はこれを観測史上初のチャンドラー極運動の消失である、と解釈した(山口・古屋, JpGU 2022)。
この原因を探るため、気象データに基づく、2種類の既存の励起関数データを解析した。1つは、パリ天文台から提供されているNCEPの再解析データに基づく大気角運動量(AAM)及び同じ大気データで駆動されたECCOのモデルに基づく海洋角運動量(OAM) (Salstein et al., 1993)であり、もう1つはESMGFZが提供しているECMWFのデータに基づくAAM及びその大気データで駆動されたMPIOMのデータに基づくOAM及びLSDMのデータに基づく陸水角運動量(HAM) (Dobslaw et al., 2010)である。加えて本研究では、気象庁が提供している大気の再解析データである、JRA-55(Kobayashi et al., 2015)に基づいてAAMを新たに計算し、これも解析した。
チャンドラー周期を432日・Qを50と仮定して、1976年~2021年(ECCOに基づくOAMを含む場合のみ2018年迄)の励起関数を積分し、2015年以降のチャンドラー極運動が再現されるかを調べた。まず、2015年以前のチャンドラー極運動はAAMだけでは説明できず、OAMとHAMが必要である。消失の原因としてAAM・OAM・HAMの総和が偶然キャンセルする可能性、或いは全てが小さくなっている可能性等が考えられる。結果、ECMWF及びJRA-55データに基づくAAMの積分値では2015年以降、励起されるCWの推定振幅が小さくなっていたのに対し、他の励起関数の積分値では小さくなっている様子は見られなかった。この結果は、2015年以降のチャンドラー極運動の消失に大気の影響があることを示唆している。但し、2つのOAMの寄与自体が整合的ではなく、完全に説明するには海洋・陸水角運動量の寄与に関して更なる解析が必要である。積分に際し仮定するQを50以上とすると、推定されるCWの振幅は大きくなり2000年代以前では観測値に近づく一方、2015年以降では大きすぎる推定となった。一方、Q=25の仮定では2015年以降のチャンドラー極運動の消失は再現されたが、2000年代以前の振幅の観測値には不足である。どのようなQの値を仮定しても、両方を完全に再現することはできなかったが、Qの値が50以下の場合ではある程度再現でき、Q=50付近の値が適切に近いことが示唆される。また、JRA-55データに基づくAAMの積分値では、地形を考慮して計算すると、考慮しない場合より励起されるチャンドラー極運動の振幅の計算値が増加し観測値に近づく、という結果を得られた。