日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 測地学・GGOS

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)、松尾 功二(国土交通省 国土地理院)、座長:宮原 伐折羅(国土交通省国土地理院)、深谷 俊太朗(国土地理院)

14:15 〜 14:30

[SGD01-03] 干渉SAR時系列解析を組み入れた地殻変動補正に向けて ~干渉SARの時間外挿の影響評価~

*深谷 俊太朗1山下 達也1、上芝 晴香1、中村 見奈子1、マービット 京湖1、三木原 香乃1古屋 智秋1小林 知勝1 (1.国土地理院)

キーワード:地殻変動補正、POS2JGD、電子基準点、干渉SAR時系列解析

はじめに
 近年、準天頂衛星システム「みちびき」のセンチメータ級衛星測位サービス(CLAS)や、精密単独測位(PPP)などの衛星測位技術の利用が自動走行を含む様々な分野で進んでいる。こうした応用分野では、測位で得られた現時点(今期)での位置に地殻変動補正を適用し、測地成果2011の基準日(元期)に準拠している地図との間の整合性を確保する必要がある。複雑な地殻変動が生じている日本においてその補正を支援するため、国土地理院は「定常時地殻変動補正サイト(POS2JGD)」を構築し、2020年3月31日から公開している(https://positions.gsi.go.jp/cdcs/)。POS2JGDでは、今期での位置と元期での位置を相互に変換するためのグリッドモデル(地殻変動補正パラメータ)を提供している。
 POS2JGDで提供されるグリッドモデルは、電子基準点のデータを用いて作成されているものの、将来的には測位技術の進展とともに、より高空間分解能のモデルが必要になると見込まれる。そこで山下ほか(2022)は電子基準点と干渉SAR時系列解析を組み合わせたモデリング手法を提案し、空間分解能の向上に一定の効果があることを示した。しかし山下ほか(2022)では、干渉SAR時系列解析に用いるALOS-2の観測データが存在する2015年以降の変動を評価の対象としていた。本手法を地殻変動補正に実装する上で大きな課題となるのは、干渉SAR時系列解析の結果を時間方向に外挿することであり、これは測地成果2011の元期への変換の精度劣化につながる可能性がある。そこで本研究では時間方向の外挿が生じる状況においても山下ほか(2022)の手法が有効であるかを評価する。

使用データと手法
 本研究では、水準測量により、顕著な地盤沈下が局所的に検出されている千葉県を対象域とした。水準測量によって得られた今期(2022年1月)の標高と測量成果(2012年1月)の差を真値とみなし、電子基準点データのみで作成したグリッドモデル(現行のPOS2JGD、今期は2022年1月1日)と、電子基準点データ及び干渉SAR時系列解析を組み合わせて作成したグリッドモデルの変換誤差を求めた。
 電子基準点と干渉SAR時系列解析を組み合わせた変換量は以下のように算出する。(1)POS2JGDと同様、電子基準点データを用いて、クリギング補間により5km間隔のグリッドモデルを作成する。(2)ALOS-2によって2015年~2022年に撮影された北行・南行観測のSAR画像に干渉SAR時系列解析(Schmidt et al., 2003)を適用しLOS変動速度を求めた後、二方向のLOS変動速度を組み合わせ、準上下方向の変動速度のグリッドデータ(約50m間隔)を作成する。(3)準上下方向の変動速度を時間方向に線形外挿する。(4)クリギング法で得られるクリギング分散に基づいて重み係数を計算し、2つのグリッドモデルの重み付き平均をとる。

結果と考察
 水準測量による今期座標と測量成果の差(真値)を図1(a)、電子基準点のみを用いて算出した変換量(POS2JGD)の真値からの較差を図1(b)、電子基準点と干渉SAR時系列解析を組み合わせて算出した変換量の真値からの較差を図1(c)に示す。図1(a)から東経140.2-140.4度、北緯35.2-35.8度のエリアで顕著な地盤沈下が発生していることがわかる。POS2JGDのグリッドモデルは、変動の長波長成分をよく表現できているものの、電子基準点の配点間隔より波長の短い変動成分を表現しきれていない(図1の赤丸)。一方、干渉SAR時系列解析を組み込むことで、変動の短波長成分をよりよく表現できていることがわかる。POS2JGDのグリッドモデルの較差のRMSは3.40cmであるのに対し、干渉SAR時系列解析を組み込んだモデルのRMSは 2.67cmとなり較差が低減した。特に変動速度が1cm/yearより大きい地域に限ると97%の水準点で較差が改善した。一方、変動速度が小さいエリアでは、較差が大きくなっている水準点も見られる(図1の青丸)。
 以上の結果は、干渉SAR時系列解析の結果を時間方向に1次関数的に外挿するという単純な手法でも、変動速度が大きい地域においてモデルの空間分解能の向上に有効であることを示している。

参考文献
Schmidt et al. (2003): Journal of Geophysical Research, 108(B9), 2416.
山下ほか(2022):電子基準点と干渉SAR時系列解析を組み合わせた地殻変動補正に向けて,日本測地学会