日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 測地学・GGOS

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)、松尾 功二(国土交通省 国土地理院)、座長:宮原 伐折羅(国土交通省国土地理院)、深谷 俊太朗(国土地理院)

14:30 〜 14:45

[SGD01-04] 水準測量誤差論再訪
—デジタルレベル時代の系統誤差—

*藤原 智1 (1.国土交通省 国土地理院)

キーワード:水準測量、系統誤差、デジタルレベル、フライング観測、精密重力ジオイド・モデル

はじめに
水準測量は、GNSS測量が広く使われる現在においても、精密かつ簡便な標高の測量に欠かせない。水準測量の弱点は一回の観測でわずかしか(100m以下)進めないことであり、長距離になるにしたがい、観測回数が増えて誤差が累積する。このとき、誤差要因が偶然誤差ならともかく、系統誤差であれば100mで0.1mmの誤差でも10km進むと1cmになることもある。
国土地理院が実施している一等水準測量の統計からは、短距離の誤差の指標である往復差から求めた標準偏差が0.5mm/kmを切っているのに対して、長距離(数百km)の誤差である環閉合差から求めた標準偏差が1.0~1.5mm/kmとなっている(佐々木・愛場 1990、国土地理院時報)。このことは、現状の水準測量における誤差には、長距離になるほど累積する系統誤差が大きく残っていることを示している。
本報告では、整備中の精密重力ジオイド・モデルの完成後を見据え、今後の最適な標高決定の方法を考えるため、近年の水準測量に含まれる系統誤差について再検討を行う。

「フライング観測」による往復差プラス
デジタルレベルは水準測量の作業の効率化を大きく向上させた。しかしながら、観測が極めて簡単に行えるため、三脚や標尺が安定する前や手順が整う前に観測を行う「フライング観測」を行ってしまうことで、不安定な測定のみならず、観測時間が非対称な測定によって新たな誤差を生じさせ、本来ならばゼロを中心にばらつくはずの往復差がプラスに偏る傾向が生じている。
Fig. 1は国土地理院で実施している掛川から御前崎までの水準測量結果であり、デジタルレベル導入後は往復差(青線)がプラス傾向になっている。なお、往復差の拡大が再測率を高め、観測精度を下げているものの、往復差が累積しても比高では相殺されるはずである。しかし、水準測量の復路では、三脚や標尺の設置を往路と同じにすればよいので、復路では往路とは異なった観測進行によって誤差の相殺が行われないことがある。このため【デジタルレベルは落ち着いて対称な観測を行うこと】が必須となる。

季節と路線方向に依存する誤差
掛川から御前崎までの繰り返し水準測量では、2000年頃まで使用していたティルティングレベルでは年周変化が非常に大きく、その後、オートレベルが導入されてから年周変化は小さくなり、さらにデジタルレベルで改善された。しかし、Fig.2に示したように、いまだに夏と冬では5mmほどの系統差があり、冬期のほうがばらつきも大きくなっている。
こうした季節と路線方向に依存する誤差は全国で観測されており、澤田(2015、国土地理院時報)は、レベルを載せた三脚が片側から日射を受けて伸張することで、レベルが継続して傾き、レベルの水平補償機能のタイムラグによって誤差が生じるとしている。この影響は、南北方向の路線で、太陽が低角で一定方向から照らしやすい冬の晴天時に大きくなると考えられる。
三脚に断熱材を巻いて試験的に行った観測を各Figに示してある。最初の観測がややはずれているが、この観測時は三脚に機構的な不具合があったようであり、それを考慮すると、三脚の温度変化を避けることでこの誤差が軽減できることがわかる。

精密重力ジオイド・モデルが明らかにする全国にわたる系統誤差
国土地理院で整備中の精密重力ジオイド・モデル(重力ジオイド)と水準点上でGNSS観測を行って求めた楕円体高と水準標高の差(実測ジオイド)を較べることで、日本全国での水準標高がもつ系統的なずれを見積もることができるようになった。
日本水準原点での両者の差をゼロとした場合、関東北部ですでに現水準標高は精密重力ジオイド・モデルを基準とした標高より10cm高くなる乖離を示し、本州北端で+20cmに達することがわかった。西日本は、現水準標高とジオイド・モデルは比較的一致しているものの、九州南端では現水準標高が–10cmの乖離を示す。水準測量の系統誤差には、隣り合う路線間の観測時期の間に生じた地殻変動等も含まれており、想定以上に長距離の系統誤差が含まれることに注意しなくてはならない。

まとめ
水準測量は短距離ではコスト面でも精度面でも比類なき実力をもっているものの、長距離での系統誤差の累積は無視できない。精密重力ジオイド・モデルが完成した際には、距離や求められる精度に応じた標高の測定方法の最適な選択や組合せを提案していきたい。