日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 地殻変動

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)、座長:大園 真子(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、山崎 雅(産業技術総合研究所)

09:15 〜 09:30

[SGD02-02] 海岸段丘の形成過程および粘弾性応答を考慮した喜界島の地殻変動史

*神谷 猛1伊藤 武男1 (1.国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院 環境学研究科)


キーワード:喜界島、海岸段丘、地殻変動、粘弾性応答、隆起サンゴ礁

1. 導入
南西諸島地域では東側からフィリピン海プレートが沈み込んでいることから巨大地震の発生が危惧されているが、明瞭な地震の痕跡が少ないために地震の発生ポテンシャルの評価が難しい領域とされている。その中でも喜界島の完新世海岸段丘は地震の痕跡として指摘され、この段丘上のサンゴ化石の放射年代から、海水準変動や各段丘面の形成期間について議論が行われている。しかしながら、喜界島は海溝の近くに位置するために上下変動の時間変化は複雑であり、またサンゴによる海岸段丘の形成プロセスも密接に作用することが予想されることから、喜界島の地殻変動史については明らかになっていない。本研究では地震学・地質学を踏まえ、喜界島の4段の海岸段丘を数値計算手法によってシミュレートすることで喜界島の地殻変動史の再現を目的とする。

2. 手法
本研究では、侵食速度をStorms et al. (2002)、堆積速度をNoda et al. (2018)、サンゴの成長速度をShikakura (2014)の手法を参照し、沿岸プロセスを考慮した地形の時間発展をモデル化した。隆起速度については伊藤・他 (2015)により地下構造と粘弾性応答を考慮した手法を採用し、海水準変動速度は6~8 kaの間に11 m上昇して現水準に達し、それ以降は変動がないものと仮定した。また、初期地形として一様に傾いた地形を採用し、各時間ステップでの各変動速度を場所ごとに計算して積算することによって地形の時空間発展を計算し、8000年間の地形変化量と現在の地形とを比較することでモデルの検証を実施した。

3. 結果・考察
本研究では粘弾性モデルを考慮した地殻変動モデルを採用し、沿岸プロセスモデル内のサンゴの最大成長速度、最大侵食速度、波浪の陸側到達限界の3つのパラメータを先行研究に基づいてグリッドサーチ的に数値解析を行なった。その結果、6~8 kaの海進期に特徴的な、上方に向かってサンゴの成長や砕屑物の堆積する地形が再現できた。また、6 kaから現在に至るまでの海退期では、海側で進行する堆積は再現することができた。しかし、現在の地形に記録されている4段の海岸段丘はグリッドサーチを行った範囲でのパラメータの設定では再現できず、最高でも3段の海岸段丘面しか形成されなかった。
この原因として、地震発生直後の粘弾性応答に伴う沈降で一度形成された海岸段丘面が海面付近にまで接近し、侵食作用によって海岸段丘が削られた後、サンゴの成長や砕屑物の堆積作用が起こることによって再び波食台の一部になることにより、海岸段丘面が消失することが海岸段丘面の形成の時空間発展解析から示唆された。このことから、現在の海岸段丘の地形には過去に発生した巨大地震が記録されていない可能性がある。一方で、既存の4面の海岸段丘がシミュレーションにより再現される条件を見出すことで、より現実的なパラメータを推定することができる可能性があり、これらの考察により、粘性率の推定や侵食速度の推定などができる可能性もあり、それらの条件等について考察を実施する予定である。