日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 地殻変動

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)、座長:西村 卓也(京都大学防災研究所)、伊藤 武男(名古屋大学大学院環境学研究科附属 地震火山研究センター)

10:45 〜 11:00

[SGD02-06] InSARとGNSSを用いた台湾東部における地震性地殻変動の検出と断層モデルの推定

*石丸 雄理1高田 陽一郎2Kuo-En Ching3、Wu-Lung Chang4 (1.北海道大学大学院理学院、2.北海道大学大学院理学研究院、3.国立成功大学、4.国立中央大学)


キーワード:台湾、InSAR、GNSS、断層、地震、インバージョン

台湾はフィリピン海プレートとユーラシアプレートの衝突によって形成された島であり,両プレートの収束速度は約7 cm/yrに達する (Seno et al., 1993).台湾東部に位置する台東縦谷断層帯 (Longitudinal Valley Fault, LVF) はプレート衝突境界の一部であるため,台湾島東部では特に地震活動が活発である.2022年3月に台湾東部を震源とするMw 6.4の地震が発生し,同年9月にはMw 6.4とMw 6.7の地震が発生した.台湾東部の地震分布や地質構造は大陸衝突に伴う地殻の変形過程が極めて複雑なものであることを示している.本研究では,InSARとGNSSのデータを用いて2022年3月22日 (UTC) に台湾東部で発生した地震 (Mw 6.4) による地殻変動を面的かつ高精度に検出し,それを説明する断層モデルを構築した.
台湾東部には標高3000 mを超える急峻な山が連なるため,山地内部にはGNSS観測点がほとんど存在しない.また台湾の山地は密林に覆われているため,波長の短いCバンドやXバンド衛星のデータを用いてInSAR解析をしても地殻変動を捉えることが難しい.そこで本研究では,波長の長いLバンド衛星であるALOS-2のデータを用いて3月の地震を挟む5つのInSARペアを作成した.GNSSデータは国立中央大学においてGIPSY-Xを用いて座標値に変換した.
Lバンド衛星の弱点は電離圏擾乱の影響を強く受けることである.本研究では,(1) 電離圏擾乱の影響を含む長波長の位相変化を多項式により近似して除去する方法と,(2) 電離圏の分散性を利用して擾乱の影響を原理的に除去するSplit Spectrum Method (SSM) (Bricic et al., 2010; Rosen et al., 2010; Gomba et al., 2016) の2種類を用い,補正したInSAR画像とGNSSデータを比較して妥当性を検証した.その結果,電離圏擾乱に伴う位相変化が空間的になめらかな場合には多項式を用いる方法が有効であることを示した.また,SSMは電離圏擾乱に伴う位相変化が複雑な空間パターンを示す場合にも対応できる一方で,その精度はレーダーの帯域幅に強く依存することが明らかになった.これら2つの方法を用いてノイズの除去に成功したInSAR画像は断層運動に伴う短波長の位相変化を示した.また急峻な山岳地域においても,断層運動に伴う位相変化とノイズを明瞭に区別することができた.
このようにして検出したInSARとGNSSによる地表変位を説明するために,断層面上のすべり分布をインバージョン解析により推定した.まず半無限弾性体のグリーン関数 (Okada, 1985) を用いて一様すべり矩形断層によるグリッドサーチを行い,断層形状は南東に70度傾斜するものが最良であることを示した.その上で,ダンピング付き線形インバージョンにより断層面上のすべり分布を求めた.推定したすべり分布はほぼ逆断層成分からなり,断層モデルの位置とすべり分布からさらに次の2つのことが明らかになった:(1) この地震は台東縦谷断層帯の地下深部約10 kmから30 kmの範囲で発生し,断層面上のすべり量の最大値は約40 cmであった.(2) InSARおよびGNSSから推定した断層モデルの地震モーメントは1.42 × 1019 Nmであり,地震波から推定した地震モーメント (5.73 × 1018 Nm,台湾中央気象局による) より大きいため,非地震性のすべりが発生した可能性が高い.
我々の結果は,台東縦谷断層帯が南東に傾斜した逆断層であること (Shyu et al., 2005) と整合的であり,2022年3月22日の地震が断層の東側に位置する海岸山脈の隆起に寄与したことを示唆する.衝突境界でのプレートの変形様式や地下構造の詳細を解明するため,上記の解析フローを2022年9月に台東縦谷断層帯周辺で発生した2つの地震 (Mw 6.4と6.7) にも適用し,この地震との関連性を検証中である.

謝辞:
本研究は東京大学地震研究所共同利用 (2021-B-03) の援助をうけた.本研究で用いたPALSAR-2データはPIXEL (PALSAR Interferometry Consortium to Study our Evolving Land surface) において共有しているものであり,宇宙航空研究開発機構 (JAXA) とPIXELとの共同研究契約に基づきJAXAから提供されたものである.PALSAR-2データの所有権はJAXAにある.