日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 地殻変動

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)、座長:西村 卓也(京都大学防災研究所)、伊藤 武男(名古屋大学大学院環境学研究科附属 地震火山研究センター)

11:15 〜 11:30

[SGD02-08] 複数GNSS観測網の統合解析に基づく能登半島群発地震に伴う地殻変動(その2)

*西村 卓也1平松 良浩2太田 雄策3 (1.京都大学防災研究所、2.金沢大学理工研究域、3.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:地殻変動、民間GNSS基準点、群発地震

プレート境界から遠く火山・地熱地域でもない能登半島の先端で2020年11月末から活発な群発地震活動が発生し,2023年2月現在で2年以上も続いている.この群発地震に伴う非定常地殻変動が国土地理院のGNSS観測網により観測されているが,西村・他(2022地震学会,2022測地学会)は,ソフトバンク株式会社によって設置された独自のGNSS観測網と国土地理院及び大学の観測網を統合解析することにより,詳細な非定常変動の時間発展が追跡できることを示した.本発表では,統合GNSS解析による最近の地殻変動観測結果と非定常変動の変動源モデルの再検討結果及びその解釈について報告する.
2020年10月以前の変動速度を補正した後の累積変位は,群発地震発生域から放射状に広がる水平変動と群発地震発生域周辺での広域の隆起を示す.2020年11月から2023年1月までの最大隆起量は,群発地震発生域に位置するソフトバンク独自基準点において,70mmを超えている.非定常変動は,最初の3ヶ月間が一番大きく,その後2022年6月16日のM5.4の最大地震まで概ね一定速度で進行し,最大地震後は群発地震発生域の南側の観測点では低下したが,北側の観測点では依然として有意な変動が観測されている.非定常地殻変動と地震活動の特徴から,最大地震までの活動を3つの期間(2020年11月から2021年3月,2021年3月から2021年6月,2021年6月から2022年6月)に分割し,それぞれの期間で非線形インバージョン法(Matsu’ura and Hasegawa, 1989)により変動源モデルを推定した.
半島のためGNSS観測点の分布が限られていることと変動源が10km以深と深いことから,地殻変動データのみから変動源モデルを絞り込むことは難しい.そのため,本発表では群発地震の発生シナリオ仮説に基づいて,それに合うような変動源モデルを提示する.最初の期間では,深さ約16kmにおいて,体積変化量が1.4 x 107 m3の低角の開口クラックが推定された.2番目と3番目の期間においては,深さ14-16kmにおける剪断開口断層によって観測変位が再現される.この剪断開口断層とは,南東傾斜の断層で非地震性の逆断層滑りと断層面の法線方向の開口が同時に発生するというモデルである.この剪断開口断層は,それぞれの期間の群発地震群の深部延長上に位置する.これらを踏まえて,以下のような群発地震の発生シナリオ仮説を提案する.群発地震発生域では,南東傾斜の逆断層帯が上部地殻から中部地殻にかけて存在し,下部地殻には低地震波速度(Nakajima, 2022EPS)や低電気比抵抗(Yoshimura et al., 2022SGEPSS)に特徴付けられるように地殻流体が豊富に存在する.下部地殻から上昇した大量の流体が,最初の期間において通水性の高い断層帯にトラップされ,深さ16kmで断層帯沿いにほぼ水平に広がる.流体の上昇により,群発地震震源域の南側では,バースト的な深い地震が引き起こされる.この流体は断層帯沿いに上昇し,地震発生深度(約 14km)よりも深部では数十cm程度の非地震性すべりを引き起こす.この非地震性すべりによる大きな応力変化が,断層帯の地震発生深度より浅部において集中した地震活動を誘発したと考えられる.一方で,地震活動の拡散的な拡大が見られることから断層帯に沿って流体が浅部へ移動することによる断層強度の低下も地震活動の活発化を引き起こしていると考えられ,両者の影響によって長期にわたる活発な群発地震活動が引き起こされているのかもしれない.

謝辞:本研究で使用したソフトバンク独自基準点の後処理解析用RINEXデータは,ソフトバンク株式会社・ALES株式会社より東北大学大学院理学研究科が提供頂いたものを使用しました.国土地理院の電子基準点RINEXデータ,気象庁一元化震源データを使用しました.京都大学及び金沢大学のGNSS観測点の設置にあたり,珠洲市教育委員会,珠洲市企画財政課,珠洲市産業振興課,珠洲市総務課,能登町教育委員会及び奥能登国際芸術祭実行委員会にお世話になりました.本研究はJSPS科研費 JP22K19949の助成を受けたものです.ここに記してこれらの機関に感謝いたします.