日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 地殻変動

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (11) (オンラインポスター)

コンビーナ:加納 将行(東北大学理学研究科)、落 唯史(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SGD02-P18] 地震時変形の数値計算における球対称モデルと半無限モデルの比較

*西上 直志1風間 卓仁1 (1.京都大学)

キーワード:弾性変形モデル、2011年東北地方太平洋沖地震、地殻変動、重力変化、インバージョン、フォワード計算

地震時弾性変形のモデル計算は、フォワード・インバージョンどちらにおいてもGreen関数を経由して行われる。Green関数の特性は前提とする弾性変形モデルの条件設定を反映しており、特に現実の地球の複雑性を弾性変形モデルでどの程度再現しているかによってGreen関数の特性が大きく変化する。例えば、Okada (1985, 1992)の地殻変動モデルおよびOkubo (1991, 1992)の重力変化モデル(以下では両者を合わせてOモデルと呼ぶ)は、自己重力のない半無限一様媒質を仮定している。一方、Sun et al. (2009)が提案したモデル(以下Sモデルと呼ぶ)は地表の曲率、媒質の鉛直方向不均質、自己重力を考慮したより複雑なモデルである。両モデルのGreen関数は震央距離に対する変化の傾向が異なっているため(Sun & Okubo, 2002; Dong et al., 2014)、インバージョン時に使用するGreen関数の違いによってインバージョン結果にも差異が生じると予想される。しかし、近地地殻変動データがインバージョン結果に与える影響をモデル間で比較する研究は行われていない。また、SモデルとOモデルを用いたフォワード計算結果を比較する研究は存在するものの(Wang et al., 2010; Zhou et al., 2012)、これらの研究で用いられているすべり分布は主に地震波インバージョンによるものである。そのため、インバージョン時の弾性変形モデルの違いがフォワード計算結果に及ぼす影響については十分な議論がなされていない状態である。そこで、本研究はSモデルおよびOモデルを用いて2011年東北地方太平洋沖地震の地震時すべり分布や変動場を数値計算し、モデルの差異に伴う計算結果の違いについて検証した。

まず、本研究は東北地震時に観測された地殻変動分布から、地震時断層すべり分布をインバージョン推定した。この際、弾性変形モデルにはSモデルとOモデルの2種類を準備し、地殻変動データには(1) GEONETデータのみ、(2) GEONETデータおよび海底地殻変動データ(Kido et al., 2011; Sato et al., 2011)、という2種類のデータセットを準備した。本研究はこれらを組み合わせることで、S1, S2, O1, O2という4種類のインバージョンを実施した。その結果、それぞれの場合のモーメントマグニチュードMwは (S1) 9.18, (S2) 9.15, (O1) 8.98, (O2) 8.97となり、SモデルのMwはOモデルのMwに比べて0.2程度大きくなることが分かった。また、最大すべり量は(S1) 78.36 m, (S2) 48.94 m ,(O1) 39.28 m, (O2) 46.90 mとなり、Oモデルでは海底地殻変動データの存在がすべり量を増大させるのに対し、Sモデルでは海底地殻変動データの存在がすべり量を抑制させることが分かった。これらのインバージョン結果の特徴は、SモデルのGreen関数の「近地で変動が大きくなり、遠地で変動が小さくなる」という特性によって説明することができる。

次に、本研究は前段落の断層すべり分布を用いて、遠地地殻変動や地上重力変化をフォワード計算した。この際、断層すべり分布には前段落のS2モデルとO2モデルを、Green関数にはSモデルとOモデルを用い、これらの組み合わせによって全4通り(S2-S, S2-O, O2-S, O2-O)のフォワード計算を行った。その後、インバージョン推定で使用しなかった実観測データ(e.g., Zhang et al., 2017)について、上記のフォワード計算結果と比較した。具体的には、各フォワード計算結果について観測値と計算値の残差RMSを計算し、このRMS値によって各モデルと観測の一致度を評価した。その結果、S2-Sの場合において残差RMSが最も小さくなり、Sモデルを一貫して使用することで観測データを最も精度よく再現できることが分かった。また、O2-Sの残差RMSはO2-Oの残差RMSよりも小さくなることが分かった。このことは、「フォワード計算の再現性を高めるためには、インバージョン時にOモデルのGreen関数を用いていたとしても、SモデルのGreen関数をフォワード計算時に使用するべき」ということを意味している。