11:38 〜 12:00
[SGL21-04] 大気化学・生物地球化学分野における同位体地球化学の進展
★招待講演
キーワード:安定同位体地球化学、硝酸、リン酸、三酸素同位体組成
炭素・酸素・水素・窒素・硫黄といった軽元素は地球表層圏の主要構成元素となっており、生物の必須元素でもある。軽元素の化合物の生成や分解には,無機的な化学反応はもちろんとして、生物活動 (酵素反応) や,多様な人間活動が関与する可能性があり、軽元素 (もしくは軽元素化合物) の「起源」を解明し、地球上におけるその「挙動」 (現世はもちろん過去も含めて) を把握することは、広範な学術分野で重要な研究課題となっている。しかし軽元素の存在量を計測するだけでこれを実現するのは容易では無い。このため、1950-60年代になって高精度測定が実現出来るようになると、軽元素安定同位体比はその有用な指標として期待され、多様な物質の軽元素安定同位体比が分析されるようになった。ところが実際に軽元素安定同位体比を分析し、これを地球上の諸課題を解決する指標として活用しようとすると、うまく機能しないケースが多かった。
軽元素安定同位体比の全球平均は基本的に一定で変化しない。ただ、地球上で進行する、数多くの同位体分別 (isotope fractionation) の諸過程が、地球上に軽元素安定同位体比の不均一を生じさせている。従ってこの不均一を利用することで、各軽元素 (もしくは各軽元素化合物) の「起源」を解明し、「挙動」を把握することが出来るように見えてしまうのだが、これには大きな落とし穴がある。同位体比を指標に使って「起源」を解明したり、「挙動」を把握したりするには、「研究対象」とする未知過程の中に同位体分別過程が存在しないか、あるいは存在しても完全に補正出来ることが前提として必要となる。しかし、ここで言う「研究対象」は、それがよくわからない対象だから「研究対象」になったはずなので、この中で「同位体分別過程が存在しない (もしくは同位体分別過程は存在するが、完全に補正出来る)」ことを保証するのは、論理的に矛盾している。軽元素の化合物の多くは化学反応性に富んでおり、むしろ研究対象こそが同位体分別の主役となっていることが多い。結果、軽元素安定同位体比に対して、「分析は手間なのに役に立たない」との見方が定着してしまったようにも見える。
しかし近年の安定同位体地球化学の進展のおかげで、軽元素安定同位体比指標の「役に立たない」問題にもようやく解決の糸口が見えて来たように思う。せっかく招待講演としてお声がけしていただいたので、本講演では、軽元素安定同位体地球化学の明るい展望を紹介したい。具体的には、一次生産を律速する栄養塩として有名な硝酸とリン酸の三酸素同位体組成が、それぞれの挙動解明に対して「役に立つ」(=想定外の同位体分別が起きる可能性を排除出来る)指標として活用出来ることが明らかになったので、その理由と、得られた最新知見をご紹介したい。後者は地層中で化石となって時代を超えて保存されるので、講演者が専門とする大気化学や生物地球化学以外の分野にも応用出来るポテンシャルがある
軽元素安定同位体比の全球平均は基本的に一定で変化しない。ただ、地球上で進行する、数多くの同位体分別 (isotope fractionation) の諸過程が、地球上に軽元素安定同位体比の不均一を生じさせている。従ってこの不均一を利用することで、各軽元素 (もしくは各軽元素化合物) の「起源」を解明し、「挙動」を把握することが出来るように見えてしまうのだが、これには大きな落とし穴がある。同位体比を指標に使って「起源」を解明したり、「挙動」を把握したりするには、「研究対象」とする未知過程の中に同位体分別過程が存在しないか、あるいは存在しても完全に補正出来ることが前提として必要となる。しかし、ここで言う「研究対象」は、それがよくわからない対象だから「研究対象」になったはずなので、この中で「同位体分別過程が存在しない (もしくは同位体分別過程は存在するが、完全に補正出来る)」ことを保証するのは、論理的に矛盾している。軽元素の化合物の多くは化学反応性に富んでおり、むしろ研究対象こそが同位体分別の主役となっていることが多い。結果、軽元素安定同位体比に対して、「分析は手間なのに役に立たない」との見方が定着してしまったようにも見える。
しかし近年の安定同位体地球化学の進展のおかげで、軽元素安定同位体比指標の「役に立たない」問題にもようやく解決の糸口が見えて来たように思う。せっかく招待講演としてお声がけしていただいたので、本講演では、軽元素安定同位体地球化学の明るい展望を紹介したい。具体的には、一次生産を律速する栄養塩として有名な硝酸とリン酸の三酸素同位体組成が、それぞれの挙動解明に対して「役に立つ」(=想定外の同位体分別が起きる可能性を排除出来る)指標として活用出来ることが明らかになったので、その理由と、得られた最新知見をご紹介したい。後者は地層中で化石となって時代を超えて保存されるので、講演者が専門とする大気化学や生物地球化学以外の分野にも応用出来るポテンシャルがある