日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL22] 年代層序単元境界の研究最前線

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:00 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:星 博幸(愛知教育大学自然科学系理科教育講座地学領域)、高嶋 礼詩(東北大学総合学術博物館)、黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、岡田 誠(茨城大学理学部理学科)、座長:星 博幸(愛知教育大学自然科学系理科教育講座地学領域)、高嶋 礼詩(東北大学総合学術博物館)、黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、岡田 誠(茨城大学理学部理学科)、尾上 哲治(九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)

10:45 〜 11:00

[SGL22-06] 北海道東部に分布する根室層群における暁新世~始新世前期の渦鞭毛藻シスト化石-炭素同位体比統合層序

*林 圭一1西 弘嗣2高嶋 礼詩3山中 寿朗4 (1.北海道立総合研究機構 エネルギー・環境・地質研究所、2.福井県立大学恐竜学研究所、3.東北大学総合学術博物館、4.東京海洋大学)

キーワード:暁新世、始新世、古第三紀、根室層群、渦鞭毛藻シスト化石、炭素同位体比層序

暁新世~始新世前期は,新生代で最も温暖な時期であり,地球史の中でも最後の温室地球環境であったとされる.その期間には,数百万年スケールの長期的で緩やかな気候変動や,数万年程度の短期的かつ突発的な気候変動が起こったことが知られている.これらの短期的な気候変動の中でも,特に,暁新世-始新世境界に生じた暁新世-始新世境界温暖化極大(PETM)は,最大規模の温暖化イベントである.PETMは,CIEと呼ばれる炭素同位体の2~4‰程度の急激な負のエクスカーションで特徴付けられる.
 北海道東部の白糠丘陵地域に広く分布する根室層群は,白亜紀後期~前期古第三紀に古千島弧の前弧域で形成された前弧海盆堆積物である.根室層群の最上部の地層である富川層は,下部ではタービダイトの細~中礫岩および砂岩が卓越する岩相であり,中部~上部は,暗灰色の砂質泥岩が主体で,しばしばタービダイトの砂岩が卓越する砂岩泥岩互層部をはさむ岩相である.富川層は,暁新世前期から始新世前期にかけて堆積したと考えられていることから,本研究では,本層を対象とし,渦鞭毛藻シスト化石および木片の炭素同位体比を検討した.
 富川層の渦鞭毛藻シスト化石群集は,汎世界的に古第三紀前期に産出する種群と南北の中高緯度地域で卓越する種群からなる.本研究では,その群集変化から7つの化石帯を確立した.また,渦鞭毛藻シストの年代示準種の産出に基づき,検討したセクションがダニアン後期~イプレシアン前期に対比されることを示した.
 一方,富川層の炭化木片の炭素同位体比は,概ね,-23~-27‰の範囲で推移しており,大局的には,富川層の下部では,-27~-25‰程度の比較的低い値で推移し,中部付近で緩やかに正にシフトし-25~-23‰の値となり,上部に向けて,再度,負にシフトしていく.また,この間に,いくつかの顕著な負のピークが認められた.
 根室層群における炭素同位体比変動を渦鞭毛藻シスト化石層序による地質年代をもとに標準的な海洋底コアの底生有孔虫殻の炭素同位体比変動と対比した結果,非常によく似た変動を示した.この対比により,富川層に後期ダニアンイベント(LDE),前期サネティアンイベント(ELPE),暁新世の各期の境界層が絞り込まれた.また,渦鞭毛藻シスト化石層序から暁新世末~始新世初期と推定される層準で,-30‰を越える顕著な負のピークが認識されたが,これはPETMのCIEに対比される可能性がある.しかし,本セクションにおいては,PETM層準の汎世界的な示準とされる渦鞭毛藻シストのApectodinium属の多産が認められない点などの課題があり,PETMおよび暁新世-始新世境界の確定のためには,今後のさらなる検討が必要である.