日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL23] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

2023年5月23日(火) 15:30 〜 16:45 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、細井 淳(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)、羽地 俊樹(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門)、座長:羽地 俊樹(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門)、大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

16:00 〜 16:15

[SGL23-03] 含蛇紋岩礫岩の堆積から推察される北海道中央北部の中期中新世テクトニクス

*金澤 安蓮1 (1.信州大学)

キーワード:砕屑性蛇紋岩、中期中新世

マントルを構成する超苦鉄質岩類の地表での露出は,大規模なテクトニクスの存在を示唆し,構造発達史を考える上で重要な存在である.超苦鉄質岩の広域変成・変質で形成される蛇紋岩は一般的に物理的・化学的に脆弱であり,長距離を長期間運搬されることはないとされるため,砕屑性の蛇紋岩粒子が保存されるには,堆積場が蛇紋岩体の近傍にあり,かつ砕屑物の堆積直後に直ちに埋没される必要があると考えられている[1].すなわち堆積岩中の砕屑性の蛇紋岩粒子の存在は,蛇紋岩体の露出時期を示す重要な証拠となりうる.本研究は北海道中央北部,幌加内地域に分布する中部中新統築別層“三十線沢含化石砂岩部層”[2]を構成する蛇紋岩粒子を多量に含む粗粒砕屑岩の堆積環境と砕屑粒子の岩石学的特徴から,北海道中央北部の中期中新世テクトニクスを考察する.
粗粒砕屑岩は水中土石流堆積物の累重からなり,堆積岩の堆積場としてチャネルやローブが考えられる.礫岩中の礫の高い円磨度は礫が一次集積地で円磨されたのちに運搬され堆積したことを示す.礫種は蛇紋岩・閃緑岩がほとんどで砕屑物の供給源は一源的である.礫表面に付着するカンザシゴカイ・コケムシ化石の存在は,礫の一次集積地が礫質な生物礁であったことを示す.
蛇紋岩礫はほとんどが非常に強く蛇紋岩化するが,残晶鉱物が見られるものが少なからず存在する.蛇紋石の網状構造の間をOpxやOpxが変質したバスタイトが埋めていることから,蛇紋岩の原岩はダナイト〜ハルツバージャイトであると考えられる.しかし自形に近いクロマイトが含まれることがあり,飽和したマントルかんらん岩の特徴を示すものもある.蛇紋岩礫のXRDの結果は,蛇紋岩体を構成する蛇紋石はリザルダイトが主体だが,一部の蛇紋岩は高温下で形成されるアンチゴライトやブルース石を含むことを示す.アンチゴライトやブルース石が生じる温度条件と緑色片岩相の変成作用の温度条件は近いため,蛇紋岩の被った蛇紋岩化作用は閃緑岩の被った変成作用と同時期である可能性がある.
閃緑岩にCpxの反応縁として角閃石が半自形に成長し,さらに緑泥石が生じていることから,緑色片岩相の変成作用を被っていると考えられる.蛇紋石脈に貫かれることから,蛇紋岩中のテクトニックブロックとして挙動したと考えられる.
枯渇したマントルかんらん岩起源の蛇紋岩と緑色片岩相の変成作用を被った閃緑岩の組み合わせは幌加内オフィオライトの下部層準と非常に類似している.一方で堆積岩中には現在の幌加内オフィオライトに見られない飽和したマントルかんらん岩起源の物質が見られることから,砕屑物の供給源となった地質体は現在の幌加内オフィオライトとは若干異なった性質を持った超苦鉄質岩体であったと推測される.
[1]荒井,1992.地質学論集.[2]橋本ほか,1965.北海道開発庁(現 国土交通省北海道局)