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[SIT16-11] ピコ秒超音波法を用いた高圧fcc鉄の弾性波速度の温度依存性の決定
キーワード:高温高圧条件での物性、弾性波速度測定、内部抵抗加熱式ダイヤモンドアンビルセル
地球型惑星や、月などの衛星の核は、鉄を主成分とする合金であると言われているが、その詳細な化学組成は地球でさえ未だ明らかではない。惑星深部の組成を制約する一般的な方法は、高温高圧試料の弾性波速度データを1次元地震波速度プロファイルと比較することである。弾性波速度は組成や結晶構造によって変化し、同じ相であっても温度や圧力によって変化しうる。そのため、天体の核に相当する温度圧力条件下で弾性波速度測定を行うことが望ましい。
ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた静的圧縮実験から、純鉄は地球の内核温度圧力条件では六方最密充填(hcp)構造であると報告されている(Tateno et al. (2010))。そのため、hcp鉄の高温高圧下の弾性波速度測定が精力的に行われてきた。X線非弾性散乱(IXS)や核共鳴X線非弾性散乱(NRIXS)法などの手法でこれまでに327 GPaまでの常温の実験(Ikuta et al. (2022))と163 GPa, 3000 Kまでの高温の実験(Sakamaki et al. (2016))が報告されている。これに対し水星や火星、月のような天体は、地球よりも核での温度圧力が低い。具体的には水星が8~40 GPa, 1700~2200 K(Chen et al. (2008), Margot et al. (2017))、火星が24~42 GPa, 2000~2600 K(Bertka and Fei (1998), Fei and Bertka (2005))、月が5~6 GPa, 1300~1900 K(Wieczorek et al. (2006))である。このような温度圧力条件下では純鉄は面心立方(fcc)構造が安定である(Tsujino et al., 2013)。
Hcp鉄とは対照的に、fcc鉄の弾性波速度測定の報告例は少ない。6 GPa, 920 Kまでのデバイ音速の測定(Shen et al. (2008))と、常圧で1428 Kまでの非弾性中性子散乱(NIS)測定(Zarestky (1987))、そして19 GPa, 1100 KまでのIXS測定(Antonangeli et al. (2015))に限られている。これらはいずれも上記の天体の核の温度と圧力には及んでいない。不透明な材料である鉄の光散乱実験には大型放射光施設のX線を用いる必要があり、手軽にデータを得にくいことがこの報告の少なさの一因となっている。
そこで本研究では試料が透明か不透明かにかかわらず高圧下での圧縮波速度を実験室で短時間測定をすることのできるピコ秒超音波法(PA)法(Decremps et al. (2014), Wakamatsu et al., (2022))と、空間的かつ時間的に安定した高温加熱が可能な内部抵抗加熱式DAC(Zha et al. (2003), Sinmyo et al. (2019))を組み合わせた高温高圧弾性波速度測定光学系を開発した。本手法ではDACの加圧軸方向に沿って片側からフェムト秒オーダーのパルスレーザーを入射させることでDACに装填された薄い試料内に圧縮波を発生させ、その伝播時間を測定する。試料温度の変化に伴う伝播時間の変化から弾性波速度の温度依存性を精密に推定することができる。なお、PA法の高温の測定はレーザー加熱式DACと組み合わせたモリブデン箔の測定に限られており(Boccato et al. (2022))、本研究は惑星中心核の主要構成物質について高温下で弾性波の伝播時間の測定を行った最初の例である。
ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた静的圧縮実験から、純鉄は地球の内核温度圧力条件では六方最密充填(hcp)構造であると報告されている(Tateno et al. (2010))。そのため、hcp鉄の高温高圧下の弾性波速度測定が精力的に行われてきた。X線非弾性散乱(IXS)や核共鳴X線非弾性散乱(NRIXS)法などの手法でこれまでに327 GPaまでの常温の実験(Ikuta et al. (2022))と163 GPa, 3000 Kまでの高温の実験(Sakamaki et al. (2016))が報告されている。これに対し水星や火星、月のような天体は、地球よりも核での温度圧力が低い。具体的には水星が8~40 GPa, 1700~2200 K(Chen et al. (2008), Margot et al. (2017))、火星が24~42 GPa, 2000~2600 K(Bertka and Fei (1998), Fei and Bertka (2005))、月が5~6 GPa, 1300~1900 K(Wieczorek et al. (2006))である。このような温度圧力条件下では純鉄は面心立方(fcc)構造が安定である(Tsujino et al., 2013)。
Hcp鉄とは対照的に、fcc鉄の弾性波速度測定の報告例は少ない。6 GPa, 920 Kまでのデバイ音速の測定(Shen et al. (2008))と、常圧で1428 Kまでの非弾性中性子散乱(NIS)測定(Zarestky (1987))、そして19 GPa, 1100 KまでのIXS測定(Antonangeli et al. (2015))に限られている。これらはいずれも上記の天体の核の温度と圧力には及んでいない。不透明な材料である鉄の光散乱実験には大型放射光施設のX線を用いる必要があり、手軽にデータを得にくいことがこの報告の少なさの一因となっている。
そこで本研究では試料が透明か不透明かにかかわらず高圧下での圧縮波速度を実験室で短時間測定をすることのできるピコ秒超音波法(PA)法(Decremps et al. (2014), Wakamatsu et al., (2022))と、空間的かつ時間的に安定した高温加熱が可能な内部抵抗加熱式DAC(Zha et al. (2003), Sinmyo et al. (2019))を組み合わせた高温高圧弾性波速度測定光学系を開発した。本手法ではDACの加圧軸方向に沿って片側からフェムト秒オーダーのパルスレーザーを入射させることでDACに装填された薄い試料内に圧縮波を発生させ、その伝播時間を測定する。試料温度の変化に伴う伝播時間の変化から弾性波速度の温度依存性を精密に推定することができる。なお、PA法の高温の測定はレーザー加熱式DACと組み合わせたモリブデン箔の測定に限られており(Boccato et al. (2022))、本研究は惑星中心核の主要構成物質について高温下で弾性波の伝播時間の測定を行った最初の例である。