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[SIT16-P11] マントル深部における含水 SiO2スティショバイトの安定性
キーワード:SiO2高圧相、マントル遷移層、下部マントル
堆積岩や玄武岩の主要構成鉱物であるスティショバイトは、10~70 GPa という幅広い圧力下で安定であり、その含水量はマントル深部における水の分布や水輸送効率に大きく影響する。従来スティショバイト中の含水量は、Al 含有量とも関連するが、最大でも 0.3 wt%であるとされていた(Litasov et al., 2007)。しかし最近の研究により、Alを含むCaCl2型SiO2相に最大1wt%の水が溶解すると報告された(Ishii et al., 2022)。一方で、Alを含まないSiO2高圧相にも3 wt%以上の多量の水が溶解する可能性が指摘されている(Lin et al., 2020;Nisr et al., 2020)。またLin et al. (2022)は密度半関数理論に基づく計算から、マントル遷移層から下部マントル最上部においてSiO2スティショバイトが約3 wt%の水を保持することを示した。しかしマルチアンビル装置やレーザー加熱式DACを用いて行われた実験的研究では、それぞれで解釈が異なっており、高温高圧状態における含水 SiO2 高圧相の安定性は正確に理解されていない。本研究では、含水量9.8 wt%のケイ酸(SiO2・xH2O)を出発物質とし、SPring-8のBL04B1に設置されている高圧発生装置SPEED-1500により圧力13-29 GPaにおいて温度1300℃まで加熱した。エネルギー分散型システムにより高温高圧下で試料のX線回折パターンを取得し、算出した格子体積から含水量を計算した。実験の結果、加熱後に見られたSiO2高圧相は常にスティショバイトであった。加熱初期の低温で観察された格子体積は無水スティショバイトの格子体積よりも非常に大きく、その値は最大で2.6 %大きかった。しかし昇温とともにその差は急激に小さくなり、550℃以上では格子体積は無水スティショバイトの値に近い値を示したことから、550℃以上では脱水が起こっている可能性が高い。また一定の温度における時分割X線観察から、時間経過とともに格子体積が縮小することが分かったため、スティショバイトへの水の溶解は準安定的な現象である可能性が示唆された。したがって、少なくとも下部マントル最上部までのマントル温度において、SiO2スティショバイトが安定相として1 wt%以上の水を保持する可能性は低い。