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[SIT18-03] 内核の不純物抵抗
キーワード:内核、不純物抵抗、KKR-CPA
地球の内核には、さまざまな地震学的特徴(軸対称異方性、東西非対称、内々核)の存在が指摘されている。これらの起源を考える上で、内核内部の対流可能性、ひいては熱伝導度が重要である。金属の熱伝導度は、ヴィーデマン・フランツの法則を用いて電気抵抗率から推定することができる。六方最密充填構造の鉄(hcp Fe)の不純物抵抗率は、Korringa-Kohn-Rostoker(KKR)法にコヒーレントポテンシャル近似(CPA)を組み合わせた第一原理計算によって、置換型合金に対して三成分系まで求められてきた。本研究では、Gomi and Yoshino (2018)の手法を拡張して、置換型と侵入型の両方の不純物を含む合金の不純物抵抗率を計算する。KKR-CPA法を用いてhcp Fe1-x-yNisxLsyLiz (Ls = Si, C, N, O, P, S, or H, Li = C, N, O, or H) の第一原理計算を行い、久保・Greenwoodの式から電気抵抗率を計算した。ここで上付きのsは置換サイト、上付きのiは八面体格子間サイトを表す。不純物濃度は 0 ≦ x ≦ 0.15, 0 ≦ y ≦ 0.3, 0 ≦ z ≦ 0.5 とした。得られた6105種類の合金の電気抵抗率に対して線形回帰を行った。この際の説明変数は、マチーセンの規則を念頭に各不純物元素の濃度とした。置換型合金であるhcp Fe0.9-yNis0.1Lsy (L= Si, C, N, O, P, S, or H) 三成分系の結果に関しては、同じ組成の先行研究(Zidane et al. 2020)と比較した。その結果、彼らは内核の不純物抵抗率を系統的に過大評価していることが分かった。また彼らの結果は、水素が他の不純物より高い不純物抵抗率を示しているが、本研究ではその様な特徴は見られなかった。侵入型合金であるhcp FeHizの結果は、格子間サイトの水素はほとんど電気抵抗に寄与しないことを示した。これは、先行研究の実験(Ohta et al. 2019)と調和的である。置換型侵入型の両方の不純物を含むhcp Fe1-x-yNisxLsyLiz (Ls = Si, C, N, O, P, S, or H, Li = C, N, O, or H)四元合金の結果に対して線形回帰を行ったところ、回帰の定数項は33 μΩcmとなり、その結果として~40 μΩcm 前後で予測性能が大きく異なった。これは抵抗率飽和の影響と考えられる。更に、置換位置と格子間位置に2種類ずつ軽元素を合金化させたFe1-x-yNisx(Si,S)sy(H,C)izの六元合金(0 ≦ x ≦ 0.05, 0 ≦ y ≦ 0.3, 0 ≦ z ≦ 0.5)の計算を行い、四元合金の線形回帰モデルが六元合金の結果を正しく予想することを確認した。第一原理計算から得られた不純物抵抗に、格子振動による電気抵抗の寄与を加えると、内核の密度欠損を満たすFe1-x-yNisx(Si,S)sy(H,C)izの六元合金の熱伝導度は150-257 W/m/Kの範囲と推定できた。内核内部の熱伝導による温度プロファイルは、熱伝導度と内核の年齢によって決まる(e.g. Buffett 2009)。この熱伝導プロファイルが断熱温度勾配プロファイルよりも低温である場合、内核は熱対流できない。例えば、内核の熱伝導度が160 W/m/Kで内核年齢が10億歳の場合、熱伝導による内核中心温度は断熱温度プロファイルによるものと比べて~ 100 K低く熱対流不可能である。本研究の熱伝導度の推定範囲 > 150 W/m/Kでは、内核年齢が極めて若い場合(0.5 億歳)であっても、現在の内核は熱対流不可能であることが分かった。