日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP26] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、永冶 方敬(東京学芸大学)、座長:宇野 正起(東北大学大学院環境科学研究科)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、針金 由美子(産業技術総合研究所)

16:30 〜 16:45

[SMP26-10] 構造化地質図とマグマ移流モデルによる領家コンプレックスの熱物質収支評価

*宮崎 一博1池田 剛2佐藤 大介1 (1.産業技術総合研究所 地質調査総合センター、2.九州大学 理学部)

キーワード:変成岩、深成岩、領家

構造化した地質図とマグマ移流モデルを用いて,領家コンプレックスの熱物質収支を評価した.
 構造化した地質図を用いて,西南日本内帯(iSWJp)の白亜紀地殻の構成要素の推定を行った.以下では,iSWJpを白亜紀珪長質深成岩(領家花崗岩)と白亜紀高温型変成岩(領家変成岩),即ち領家コンプレックスからなる地殻の深い部分(深部)と,白亜紀珪長質火山岩が分布する地殻の浅い部分(浅部)に分けた.白亜紀珪長質火山岩はカルデラ及びカルデラ群の形成を伴っている.深部と浅部は,それぞれ従来の領家帯と山陽帯にほぼ相当する.20万分の1日本シームレス地質図V2(GSJ, AIST, 2022)を用い,各ポリゴンの属性を年代,化学組成,堆積環境,変成条件などの要素に分解して構造化した.構造化した地質図シェイプファイルとQGISを用いて地質単元の統計解析を行った.
 QGISを用いた解析の結果,深部を構成する地質単元は白亜紀珪長質深成岩が約80%,白亜紀高温型変成岩が約20%であった.浅部では,白亜紀珪長質火山岩が約30 %,白亜紀珪長質深成岩が約30 %,白亜紀以前の地質単元からなる古い地殻残存物が40 %であった.以上の結果は、iSWJp 地殻を構成していた古い地殻が,深部ほど大規模に白亜紀珪長質深成岩,即ち白亜紀花崗岩に置換されたことを示している.
 上記のような白亜紀花崗岩による古い地殻の置換と古い地殻から転化した領家変成岩に記録された温度圧力構造を再現するため,一次元マグマ移流モデル(Miyazaki, 2004)を用いて,地殻深部に相当する三河領家(Miyazaki, 2010)と柳井領家(Ikeda, 2004)地域の領家変成岩形成時の花崗岩質マグマフラックスを算出した.さらにその結果を,兵庫県赤穂地域(Sato et al., 2016)の白亜紀カルデラ群形成時のマグマフラックスと比較した.最近の成果(Miyazaki et al., 2023 など)に基づき,深部でのマグマ移流は数百万年から1千万年の間隔でパルス的に起こると仮定した.白亜紀カルデラ群の形成にも数百万年から1千万年の間隔のパルスが存在する(Sato et al., 2016).一方,カルデラ形成に必須な浅部マグマ溜まりは,短い周期でパルス的に起こる薄いシート状のマグマ貫入が想定される(Annen, 2009).浅部マグマ溜りの薄いシート状貫入のパルス間隔は,深部マグマ移流やカルデラ群内のカルデラ形成間隔よりはるかに短い.しかしながら,地表及び深部でも,短い周期のマグマパルスが存在してもおかしくない.その場合,地表でのカルデラ群、浅部の巨大マグマ溜り,深部の高温型変成コンプレックスは,周期の異なるマグマパルスで形成されるマルチタイムスケールプロセスとなる.
 マグマ移流モデル計算の結果,高温型変成コンプレックスのマグマフラックスは,カルデラ群のマグマフラックスの約10倍であることがわかった.高温型変成コンプレックスのマグマフラックスは,以下の下限と上限の範囲にある.即ち,プルトンの長期平均マグマ付加率(Annen, 2009)に対応した下限,カルデラ形成に必要な浅いマグマ溜りのマグマ付加率の下限に対応(Annen, 2009)した上限である.また,モデル計算結果は,マグマ移流によって地殻深部が一様に高温になる一方,地殻浅部では,移流によって深部から運ばれた熱が伝導によって運ばれるため,非常に高い地温勾配が実現されることを予測した.カルデラ形成を伴う大規模な珪長質火山活動には,地殻浅部に巨大マグマ溜まりが形成される必要がある.そのような浅部巨大マグマ溜まり形成には,30℃/km以上の高い地温勾配が必要となる(Annen, 2009).また,地温勾配が高ければ高いほど,浅部巨大マグマ溜まり形成に有利になる.今回の結果は,30℃/km以上の高い地温勾配を地殻浅部で非常に長く維持できることを示した.地殻深部での長周期のマグマパルスは,高温状態を長時間維持するのに貢献し,深部でのより高いマグマフラックスは地殻浅部の地温勾配をより高くするのに貢献する.従って,地殻深部での高温型変成コンプレックスの形成と地表での大規模珪長質火山活動は表裏一体である可能性が指摘できる.