日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP26] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2023年5月26日(金) 09:00 〜 10:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、永冶 方敬(東京学芸大学)、座長:針金 由美子(産業技術総合研究所)、永冶 方敬(東京大学大学院理学系研究科)

09:00 〜 09:15

[SMP26-11] 三浦―房総付加体の白子断層の断層ガウジにおけるナノスケール粒子破砕による間隙構造変化

*中元 啓輔1亀田 純1濱田 洋平2山本 由弦3 (1.北海道大学、2.海洋開発研究機構、3.神戸大学)


キーワード:断層ガウジ、間隙構造、白子断層

断層ガウジは浅部の断層運動にともなう鉱物の破砕や岩石―流体反応によって形成されると考えられている(Marone and Scholz, 1989; Sibson, 1977; Vroljik and van der Pluijm, 1999).こうした作用によって形成される粘土鉱物は断層の摩擦強度や透水性を支配するため(Warr and Cox, 2001),断層ガウジ中の粘土粒子の状態を明らかにすることは断層運動の理解にとって重要である.本研究では上部中新統から下部鮮新統からなる三浦―房総付加体中の白子断層を対象として、ガス吸脱着法によるナノスケールの間隙構造解析に基づいて断層ガウジの発達過程を明らかにすることを目的とする.白子断層は、ビトリナイト反射率測定や粘土鉱物の分析により、沈み込み帯浅部において地震性の高速滑り変形を起こした断層と考えられている(Hamada, 2013; Kameda et al., 2013; Mausmoto et al., 2018)。
ガス吸脱着測定は白子断層の断層ガウジと母岩を対象に行なった.試料は軽く粉砕し425μmの試験ふるいを通過したものを用いた.測定前に表面に吸着している水分子や気体分子を取り除くため200℃で12時間加熱しながら真空脱気を行い,その後液体窒素温度条件下で測定を行った.測定によって得られた吸脱着等温線にBrunauer–Emmett–Teller (BET) theory を適用し,BET比表面積を算出した.また加熱処理を行っていないサンプルを用い,X線CTによる断層ガウジの内部組織観察を行った。
ガス吸脱着測定により断層ガウジでは母岩に比べBET比表面積の増大と10nm以下の細孔の増加が明らかとなった。これらの原因を特定するためX線CTにより得た画像から石英や長石からなるクラストの粒子径分析を行ったが,断層ガウジと母岩の間に大きな差はみられなかった。したがってBET比表面積の増大はマイクロスケールの粒子破砕では説明できず、ナノスケールの粘土粒子破砕が起こった可能性が示唆される。そこで先行研究で報告されている断層ガウジおよび母岩の粘土XRDパターンを用いて、NewmodによるXRDパターンシミュレーションを行った。その結果、イライト―スメクタイト混合層鉱物の積層数を減少させることで、断層ガウジに特異的に見られるXRDパターンの変化を再現できることがわかった。以上の結果から,白子断層の断層運動ではクラストの破砕はわずかであり,イライト―スメクタイト混合層鉱物などの粘土鉱物の破壊や剥離によってナノスケールの細孔が形成されたと考えられる.白子断層において高速滑り変形が生じた際、粘土粒子の選択的な破砕によってエネルギー散逸が抑制されたため、断層すべりが促進された可能性がある.