日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP26] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (16) (オンラインポスター)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、永冶 方敬(東京学芸大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SMP26-P10] パラワンオフィオライトにおける基底部かんらん岩の変形・熱水変質作用

*阿部 日誉里1平内 健一2 (1.静岡大学大学院総合科学技術研究科、2.静岡大学理学部地球科学科)


キーワード:沈み込み開始、パラワンオフィオライト、基底部かんらん岩、マントルウェッジ、かんらん石、滑石

沈み込み帯域オフィオライトは海洋プレートの沈み込み開始時に関連するプロセスを記録している(Prigent et al., 2018).本研究では,マントルウェッジ基底部における変形・熱水変質作用が沈み込み開始過程に及ぼす影響を理解することを目的として,フィリピン共和国のパラワン島に露出するパラワンオフィオライトの基底部かんらん岩体について構造岩石学的解析を行った.Keenan et al. (2016)は,オフィオライト構成岩石と角閃岩の年代測定結果から,約34 Maに中央海嶺の拡大軸付近で強制的沈み込みが起こったことを指摘している.パラワン島のUlugan Bay東岸に分布する,メタモルフィックソールを構成する角閃岩の変成ピークは約700 °C,1.3 GPaであり(Valera et al., 2021),直上に位置する基底部かんらん岩と断層を介して接している(Keenan et al., 2016).
 本研究で採取した基底部かんらん岩はダナイト,ハルツバージャイト,レルゾライトから構成され,少なくとも幅約2 kmにわたってかんらん石の動的再結晶による粒径減少が進行していた.結晶方位解析の結果より,粗粒なかんらん石(粒径約1 mm以上)は主に{0kl}[100] (Dタイプ)もしくは(010)[100] (Aタイプ)のすべり系を示し,比較的低含水量の条件下(Karato et al., 2008)での転位クリープが示唆される.一方,細粒なかんらん石(粒径約200 µm以下)はランダムなファブリックを示し,拡散クリープによる変形が示唆される.動的再結晶の程度はメタモルフィックソールに近い地点ほど高い.また,細粒な基底部かんらん岩は,溶解沈殿過程を経て,滑石とトレモライトを形成した.特に,滑石は明瞭なCPOを示し,かんらん石粒子を取り囲うようにしてネットワーク状に析出していた.
 基底部かんらん岩は,比較的高温・乾燥条件下において転位クリープを被っており,スラブ直上の細粒かんらん岩では動的再結晶による粒径減少に起因する転位クリープから拡散クリープへの遷移が起こったことが示唆される.その後,より低温条件下においてスラブ脱水に由来するSiO2やCaOに富んだ水流体が細粒かんらん岩に供給され,滑石に富む剪断帯が形成されたことが考えられる.このようなかんらん石の拡散クリープと滑石の形成の両方のプロセスの進行は,基底部かんらん岩の強度の低下をもたらし,海洋プレートの継続的な沈み込みに対して重要な役割を果たしていたかもしれない.

引用文献:Karato et al. (2008), Annual Review of Earth and Planetary Sciences, 36, 59-95. Keenan et al. (2016), Proceedings of the National Academy of Sciences, 113, 7379-7366. Prigent et al. (2018), Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 123, 7529-7549. Valera et al. (2021), Journal of Metamorphic Geology, 40, 717-749.