日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-RD 資源・鉱床・資源探査

[S-RD24] Cutting-edge sensing technology applied to geology and resource exploration

2023年5月24日(水) 15:30 〜 16:45 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、Muhammad Burhannudinnur(The Indonesian Association of Geologist)、Decibel Villarisco Faustino-Eslava(Geological Society of the Philippines)、Mohd Hariri Arifin(Universiti Kebangsaan Malaysia)、座長:高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)

16:15 〜 16:30

[SRD24-04] Physics-informed ニューラルネットワークを用いた地熱系モデリングに境界条件が与える影響の検証

★招待講演

*小平 岳大1石塚 師也1林 為人1 (1.京都大学大学院工学研究科)

キーワード:地熱系モデリング、physics-infromed ニューラルネットワーク、境界条件

地熱資源量の評価や坑井掘削位置の選定において地熱系モデリングは重要である。一方で従来の数値シミュレーションの逆解析によるモデリングは計算コストの問題があるため、新たな手法の開発が求められる。Physics-informedニューラルネットワーク(PINN)は損失関数で物理法則や境界条件を考慮することで少量のデータでも物理的妥当性を持つ学習が可能な手法として注目されている。しかし対象が地下空間である地熱系モデリングで領域境界の温度や圧力の観測は困難であり、PINNの実用化のためには考慮する境界が少数でも精度を維持できることが求められる。本研究では予め作成した温度、圧力、浸透率の疑似分布を、考慮する境界条件が異なる複数のPINNで学習し誤差を比較することで境界条件が予測精度に与える影響を検証した。
まず経験式に擾乱を与えることで浸透率の疑似分布を作成した。単純化するため物性(間隙率、密度、熱伝導率、比熱)を一様と仮定した水平1km×鉛直1kmの二次元領域に浸透率を代入し熱水系シミュレーションソフトTOUGH2による温度と圧力の分布の計算を行った。また境界条件は上部を温度・圧力一定、底部を熱流束一定、両側部を圧力勾配0とした。疑似分布作成後、領域内の仮想的な井戸から得られる温度、圧力、浸透率を教師データとして質量保存則とエネルギー保存則を考慮したPINNで学習を行った。この時考慮する境界を全境界、上部、底部、側部、上部と底部、上部と側部、側部と底部、および境界条件を考慮しない場合の8種類用意した。作成した疑似分布と学習で得られた温度、圧力、浸透率の分布の間の誤差を8つのPINNで比較することで、考慮する境界条件が予測誤差に与える影響を考察する(解析1とする)。また各条件につき井戸は3本、5本、8本の場合を考え、さらにそれぞれの井戸数の各条件下で5回学習を行った。最後にインドネシアのラヘンドン地熱地域の地質モデルをもとに計算した水平6 km×鉛直3 kmの疑似分布に対しても同様に学習を行い、本研究の実データへの適用可能性を検証した (解析2とする)。
解析1において温度の観測値と推定値の差を全グリッドで平均して求めた誤差の5回の学習の平均値を各条件で比較したところ、井戸数によらず底部のみ、上部と底部、側部と底部を考慮した3つの場合における誤差が全境界を考慮した場合よりも小さくなった。底部を考慮した3つの場合に誤差が小さくなったのは井戸の無い外挿領域で底部の温度勾配条件が温度に関する教師データとして働いたことが理由として考えられる。また全境界を考慮した場合よりも誤差が小さくなったのは損失関数が全境界を考慮する場合より単純化したことで局所解に陥るリスクを軽減できたことが理由として考えられる。また、解析2についても全境界を考慮した場合の誤差と底部のみ及び上部と底部を考慮した場合の誤差にほとんど違いは見られなかった。また、圧力と浸透率については一部を除いて全境界を考慮する場合より誤差の5回の学習の平均が1%以上大きくなる条件は見られなかった。以上より、領域全体の境界条件を規定しなくとも精度を保ったモデリングを行える可能性が示された。