日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:澤井 みち代(千葉大学)、金木 俊也(産業技術総合研究所)、奥脇 亮(筑波大学)、浦田 優美(産業技術総合研究所)、座長:金木 俊也(京都大学防災研究所)、浦田 優美(産業技術総合研究所)


11:45 〜 12:00

[SSS06-10] 跡津川断層系の茂住祐延断層破砕帯中の酸化グラフェン:断層の力学・電磁気学的特性への影響

*島田 知弥1、長濱 裕幸1中村 教博1武藤 潤1 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻)


キーワード:酸化グラフェン、クリープ、跡津川断層系、茂住祐延断層、グラファイト、ラマン分光法

跡津川断層系は日本で唯一のクリープ運動を示す活断層(Hirahara et al., 2003)であり、その要因として断層中に存在するグラファイトが注目されている(Oohashi et al., 2012)。グラファイトは低速度でも摩擦係数が低く(Oohashi et al., 2011)、化学的に安定性が高いため地質学的に残りやすいことから、断層すべりの研究に役立つと考えられてきた。グラファイトはシート状のグラフェンが積層して形成されているため、断層中にもグラフェンが存在する可能性がある。そこで本研究では、グラフェンに酸素含有官能基を有する酸化グラフェン(GO)に注目した。GOの物性(摩擦係数、導電性)は酸化・還元、および形状によって変化するので、GOの特異な物性は断層運動に制約を加えることができる。したがって、本研究ではラマン分光分析を利用して、跡津川断層系の茂住祐延断層破砕帯中にGOが存在することを世界で初めて見出したので報告し、GOが断層にどのような影響を与えるのか考察した。
本研究で解析した試料は、跡津川断層系の茂住祐延断層破砕帯で採取した。跡津川断層系分布域の地質は飛騨帯に属し、飛騨変成岩類と手取層群が分布する(竹内ほか,2010)。茂住祐延断層は堆積岩の手取層群に存在し、2つの顕著な破砕帯が確認されている(Tanaka et al., 2006)。この断層を貫く活断層調査坑道が存在し、この坑道に露出するB破砕帯(南側)からガウジ試料を採取した。石膏で固めたガウジ試料から数㎜の粒をエポキシ樹脂に包埋し、表面を研磨した。この試料を用いてラマン分光法測定、SEM像観察、EDS分析などを行った。GOを含む炭質物の同定は、ラマンスペクトルの見かけのGピークと、2D'ピークのラマンシフトを半分にして推定されたD'ピークのラマンシフト差から、GO、還元型酸化グラフェン(rGO)、グラファイトに分類(King et al., 2016)した。
茂住祐延断層ガウジのラマン分光分析の結果、GOが認められ、部分的にrGOも含まれていた。また、炭質物の示すD3とD4ピークのラマンシフトは、酸素含有量に相関がある(Claramunt et al., 2015)ことから、これらのピークから試料に含まれるGOの酸素含有量を10~20%と推定できた。またSEM像観察では、試料表面に不均質な凹凸や層状破断面が見られ、破壊と変形による断層粘土が認められた。
茂住祐延断層ガウジの炭質物の詳細なラマン分析とピーク分離から、世界で初めて断層ガウジ中にGOが含まれることが確認された。GOの摩擦係数はグラファイトよりもさらに1桁ほど小さいことが物性研究から判明している(0.01以下程度;Bouchet et al., 2017)ので、GOはグラファイトよりも効果的に断層の摩擦強度を下げると考えられる。また、GOの酸素含有量と電気伝導率の関係(Morimoto, 2016)に基づくと、試料中のGOの電気伝導率は103~105 S/mと推定できる。これはほぼグラファイトの電気伝導率と変わらないことから、断層中のGOは伝導体として電流が流れ、地震電磁気現象に影響を及ぼし、電気伝導度異常体として存在する可能性がある。