日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:澤井 みち代(千葉大学)、金木 俊也(産業技術総合研究所)、奥脇 亮(筑波大学)、浦田 優美(産業技術総合研究所)、座長:澤井 みち代(千葉大学)、奥脇 亮(筑波大学)


14:15 〜 14:30

[SSS06-13] 母岩の表面粗さが断層の構造と力学に与える影響の解明

*福田 百世1大橋 聖和1廣瀬 丈洋2 (1.山口大学大学院創成科学研究科、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構 高知コア研究所)

キーワード:断層

断層の構造と力学は不可分であることが知られており(例えば,Faulkner et al., 2010),力学データと断層組織が比較可能である摩擦実験からその関係が議論されてきた.なかでも変形集中過程と断層強度に着目した場合,断層ガウジ中の弱い鉱物が連結した組織を形成し,変形が局所化するときに断層強度が弱化することが明らかになっている(Collettini et al., 2009; Oohashi et al., 2013).また,天然の断層帯はスケールによらず幅があることも知られている(Choi et al., 2016).Childs et al., (2009)では,様々な断層のコンパイルから断層の累積変位量と断層帯の幅には正の相関があることや断層帯の幅は同変位量において3桁程度の差があることも明らかにしている.このとき,低強度で幅の広がりにくい断層と,高強度で幅の広がりやすい断層が,断層帯幅の多様性を生じているという仮説を立てることができる.しかし,幅が広がりやすい断層帯については力学データを含めた形成過程の解明は行なわれていない.そこで本研究では,(1)変形集中帯の幅の広がりやすさ・広がりにくさを決定づける要因を明らかにすること,(2)変形集中帯の幅と形成プロセスが断層の強度に及ぼす影響を解明すること,の二つを目的とし,砂岩および斑れい岩シリンダーで石英–グラファイト混合粉末を挟んだ摩擦実験を行なった後,共焦点顕微鏡を用いてシリンダーの表面粗さを計測した.
 その結果,砂岩シリンダーを用いた実験では,斑れい岩に比べて有意に高い摩擦係数(斑れい岩のμ≒0.4に対し,砂岩のμ≒0.7)を示し,細粒化した石英からなる厚い変形帯が形成されていた.砂岩シリンダーの初期(実験前)の表面粗さを変えた実験からは,実験前の表面粗さが粗いほど変形集中帯の幅が広がる傾向が認められた.また,シリンダーの表面粗さ測定からRMS(二乗平均方根粗さ)を求めた結果,砂岩シリンダーのRMSは実験を通して斑れい岩のものより約2倍高かった.これは,砂岩に含まれる石英の摩耗耐性が高いため,(ⅰ)石英粒子が表面の凸部を形成していること,(ⅱ)相対的に摩耗耐性の低い長石が削られて凹部を形成していることが原因である.またシリンダー表面のSEM観察からは,斑れい岩中の有色鉱物上にグラファイトが引き延ばされたスミアリングが確認できた.この部分が強度の低いすべり面となることが弱化の要因であり,ガウジ内部への応力鎖(force chain)形成を阻害しているため,ガウジ中の変形が弱かったと考えられる.これに対して,砂岩シリンダーは実験中も表面に凹凸があるため,応力鎖がガウジ内部に効果的に形成されていたと考えられる.これにより,ガウジの粉砕が進んで変形集中帯が形成されたが,すべり面上にグラファイトのスミアリングや濃集が起こらなかったことが高い摩擦係数を維持した原因であると考えられる.これらの結果より天然の断層においても,母岩の表面粗さ(=fault zoneとprotolithの境界面の凸凹)が粗い場合に断層強度は高く,ガウジ帯やカタクレーサイト帯などの変形集中帯の幅が広がりやすいと考えられる.