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[SSS06-P13] 速度・状態依存摩擦則で支配される断層においてNagata lawを採用した動的地震サイクルシミュレーションの予察的結果
キーワード:動的地震サイクルシミュレーション、速度状態依存摩擦則、Nagata law
地震を繰り返す断層のすべり挙動を調べる有用な手段として、地震サイクルシミュレーション(ECS)がある。Rice & Ben-Zion (1996)は、線形弾性体中に存在する平面断層を境界として捉え、動弾性を波数空間で扱い断層構成則と連立することで動的ECSを行う枠組み(スペクトル境界積分方程式法;SBIEM)を提案した。この手法はLapusta et al. (2000)によって数値計算が効率化され、その後もNoda (2020)による周期的境界条件の撤廃や、Miyake & Noda (2019)等による弾性体以外への拡張といった改良がなされている。
SBIEMを用いた動的ECSでは、断層構成則として速度・状態依存摩擦則(RSF則)が採用される場合が多い。RSF則は室内実験の力学データを説明するためにDieterich (1979)とRuina (1983)によって提案された。RSF則では、断層面の摩擦力がすべり速度と断層面の状態を表す状態変数に依存する。状態変数の発展則としては、最も初期に提唱されたaging lawとslip lawの二つに加え、数多くの式が提案されている。Nagata et al. (2012)は、実験中のP波透過率が断層面の状態(真実接触面積)を反映しているという仮定から、状態を直接定量化することを試みた。その結果、既存の発展則では考慮されていなかった応力弱化項を新たに加えることで、実験中の力学データ及び透過率データを説明できると結論づけた。
状態発展則の選択は、準静的な核形成とその後の破壊伝播のモデル計算結果(例えばAmpuero & Rubin, 2008)や動的ECSの結果(例えばRice & Ben-Zion, 1996)に無視できない影響を与えうる。Kame et al. (2015)は、Nagata lawを採用した準静的な核形成の数値計算を行い、aging lawおよびslip lawを採用した場合との比較を行った。その結果、Nagata lawの震源核は、クラック状破壊(aging law)ではなくパルス状破壊(slip law)に近い特徴を持つものの、すべり速度が局所化する空間サイズはslip lawよりも大きくなることを報告した。Nagata lawを採用した地震サイクルを模したシミュレーションの例としては、Kame et al. (2013)による質量ゼロの一次元バネブロックモデルが挙げられるが、動的ECSを行った既往研究は存在しない。これらの既往研究は、Nagata lawを採用した動的ECSの解がaging lawとslip lawを採用した場合の中間となることを示唆するが、解が定常状態から十分に遠く、非線形性が解の挙動を支配する場合、この予想は必ずしも正しいとは言えない。
本研究の目標は、Nagata lawに支配される断層の地震サイクルがaging lawやslip lawとどの様に違うのかを明らかにする事である。そのため、Noda et al. (2022)のコードを元に、SBIEMによる動的ECSにNagata lawの実装を行った。Nagata et al. (2012)が報告している形式での摩擦パラメータは、既往の発展則と数学的な意味が異なることに注意が必要である。ここでは、Noda & Chang (submitted)によって再定義された発展則をさらに修正することで、既存の発展則と比較が容易な形でNagata lawを記述した。これらの定式化では、応力弱化項が陽に現れず、既存の発展則を使った場合と全く同じ手法で動的ECSへ組み込むことができる。本発表では、Nagata lawの動的ECSへの実装手法および得られた予察的な結果について紹介する。
SBIEMを用いた動的ECSでは、断層構成則として速度・状態依存摩擦則(RSF則)が採用される場合が多い。RSF則は室内実験の力学データを説明するためにDieterich (1979)とRuina (1983)によって提案された。RSF則では、断層面の摩擦力がすべり速度と断層面の状態を表す状態変数に依存する。状態変数の発展則としては、最も初期に提唱されたaging lawとslip lawの二つに加え、数多くの式が提案されている。Nagata et al. (2012)は、実験中のP波透過率が断層面の状態(真実接触面積)を反映しているという仮定から、状態を直接定量化することを試みた。その結果、既存の発展則では考慮されていなかった応力弱化項を新たに加えることで、実験中の力学データ及び透過率データを説明できると結論づけた。
状態発展則の選択は、準静的な核形成とその後の破壊伝播のモデル計算結果(例えばAmpuero & Rubin, 2008)や動的ECSの結果(例えばRice & Ben-Zion, 1996)に無視できない影響を与えうる。Kame et al. (2015)は、Nagata lawを採用した準静的な核形成の数値計算を行い、aging lawおよびslip lawを採用した場合との比較を行った。その結果、Nagata lawの震源核は、クラック状破壊(aging law)ではなくパルス状破壊(slip law)に近い特徴を持つものの、すべり速度が局所化する空間サイズはslip lawよりも大きくなることを報告した。Nagata lawを採用した地震サイクルを模したシミュレーションの例としては、Kame et al. (2013)による質量ゼロの一次元バネブロックモデルが挙げられるが、動的ECSを行った既往研究は存在しない。これらの既往研究は、Nagata lawを採用した動的ECSの解がaging lawとslip lawを採用した場合の中間となることを示唆するが、解が定常状態から十分に遠く、非線形性が解の挙動を支配する場合、この予想は必ずしも正しいとは言えない。
本研究の目標は、Nagata lawに支配される断層の地震サイクルがaging lawやslip lawとどの様に違うのかを明らかにする事である。そのため、Noda et al. (2022)のコードを元に、SBIEMによる動的ECSにNagata lawの実装を行った。Nagata et al. (2012)が報告している形式での摩擦パラメータは、既往の発展則と数学的な意味が異なることに注意が必要である。ここでは、Noda & Chang (submitted)によって再定義された発展則をさらに修正することで、既存の発展則と比較が容易な形でNagata lawを記述した。これらの定式化では、応力弱化項が陽に現れず、既存の発展則を使った場合と全く同じ手法で動的ECSへ組み込むことができる。本発表では、Nagata lawの動的ECSへの実装手法および得られた予察的な結果について紹介する。