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[SSS06-P14] 動力学的震源モデルに基づく中央構造線断層帯の連動性の検討(その3)
キーワード:中央構造線断層帯、動力学的震源モデル、連動性
中央構造線断層帯は,日本で最も活動的な断層帯のひとつである.この断層帯のうち,讃岐山脈南縁東部区間,同西部区間,石鎚山脈北縁区間,同西部区間を対象として,連動可能性とその条件を検討するため,地質学的および地球物理学的データに基づいて動力学的震源モデルを構築し,動的破壊シミュレーションをおこなう.前回報告(加瀬・浦田,2022)では,現実的な応力場モデルを考慮して,パラメータの感度解析をおこない,応力降下量の深さプロファイルは連動性のパターンにほとんど影響しない一方で,最大水平圧縮応力軸の向きは連動性のパターンに大きく影響することを示した.しかし,応力場推定の結果を参照して,断層走向に沿った主応力軸の向きの詳細な変化を応力場モデルに反映させた場合,剪断応力の空間変化が大きく,摩擦係数が一様と仮定すると,複数区間の連動だけでなく,区間全体が破壊する程度の規模の破壊も起こりにくい.そこで今回は,活動履歴を考慮して応力場モデルを構築することで,摩擦係数の不均質分布を導入し,連動のパターンを整理することを試みる.
断層モデルと媒質モデルは,前回報告と同じものを使用した.現在の応力場のモデルは,前回報告の断層走向に沿った主応力軸の向きの変化を反映させた応力場モデルを用いた.これは,最大水平圧縮応力軸の向きは,全国0.2°メッシュ応力方位データ(Uchide et al., 2022)を断層走向に沿ってスムージングし,最大水平圧縮応力の大きさは佐々連における応力解放法による応力測定データ(Tanaka, 1986;斎藤ほか,1988)を参照,中間主応力は鉛直でかぶり圧に等しいとし,それぞれ深さに比例するとした上で,最小水平圧縮応力の大きさを応力方位データの応力比から求めたものである.応力降下量の深さプロファイルは,深さ10 kmまで応力降下量,強度ともに深さに比例,10 km以深では強度は一定値,応力降下量は深さとともに減少し,深さ15 kmでゼロ,15 km以深では負の応力降下量とするモデルのみを用いた.その上で,予察的な数値計算で断層長とすべり量のスケーリング則(松田ほか,1980)を満たす応力降下量のプロファイルを求めた.
本研究で対象とする4区間の平均変位速度の比(地震調査研究推進本部,2017)は,スケーリング則(松田ほか,1980)によるすべり量の比と概ね一致することから,各区間の平均的な応力降下量は概ね同じと考えられる.4区間の平均活動間隔には倍半分程度のばらつきがあるものの,その中央値は約1100年であり,また,最新活動時期は概ね同時期で,歴史記録からは16世紀周辺以前とされる(地震調査研究推進本部,2017).そこで,各区間の標準的な活動間隔を1100年,最新活動を440年前とし,破壊が終了した時点での剪断応力が動摩擦応力であると考えると,地震発生直前の剪断応力は,現在の剪断応力に平均的な応力降下量の6割を足したものであると仮定できる.同様に,動摩擦応力は,現在の剪断応力から平均的な応力降下量の4割を引いたものと仮定できることから,法線応力の時間変化は無視して,動摩擦係数を得た.また,静摩擦係数と動摩擦係数の差を定数と仮定(川方,私信)した.
断層面の境界条件には,Coulombの破壊基準とすべり弱化の摩擦構成則(Ida,1972;Andrews,1976)を仮定し,弾性体の運動方程式を差分法(Kase and Day,2006)で解くことによって,断層面上の破壊伝播過程を求めた.
摩擦係数の不均質分布を導入することで,走向方向の応力降下量を均質とした一方,静摩擦係数と動摩擦係数の差を一定としたことで,走向方向だけでなく,傾斜角方向にも,強度と応力降下量の比が不均質となるため,強度の不均質を強く反映した連動パターンとなる.適切な静摩擦係数と動摩擦係数の差の設定について検討するとともに,各区間の標準的な活動間隔と最新活動からの経過時間の2パラメータの感度解析もおこなう必要がある.
謝辞:本研究は,文部科学省委託事業「連動型地震の発生予測のための活断層調査研究」として実施されました.
断層モデルと媒質モデルは,前回報告と同じものを使用した.現在の応力場のモデルは,前回報告の断層走向に沿った主応力軸の向きの変化を反映させた応力場モデルを用いた.これは,最大水平圧縮応力軸の向きは,全国0.2°メッシュ応力方位データ(Uchide et al., 2022)を断層走向に沿ってスムージングし,最大水平圧縮応力の大きさは佐々連における応力解放法による応力測定データ(Tanaka, 1986;斎藤ほか,1988)を参照,中間主応力は鉛直でかぶり圧に等しいとし,それぞれ深さに比例するとした上で,最小水平圧縮応力の大きさを応力方位データの応力比から求めたものである.応力降下量の深さプロファイルは,深さ10 kmまで応力降下量,強度ともに深さに比例,10 km以深では強度は一定値,応力降下量は深さとともに減少し,深さ15 kmでゼロ,15 km以深では負の応力降下量とするモデルのみを用いた.その上で,予察的な数値計算で断層長とすべり量のスケーリング則(松田ほか,1980)を満たす応力降下量のプロファイルを求めた.
本研究で対象とする4区間の平均変位速度の比(地震調査研究推進本部,2017)は,スケーリング則(松田ほか,1980)によるすべり量の比と概ね一致することから,各区間の平均的な応力降下量は概ね同じと考えられる.4区間の平均活動間隔には倍半分程度のばらつきがあるものの,その中央値は約1100年であり,また,最新活動時期は概ね同時期で,歴史記録からは16世紀周辺以前とされる(地震調査研究推進本部,2017).そこで,各区間の標準的な活動間隔を1100年,最新活動を440年前とし,破壊が終了した時点での剪断応力が動摩擦応力であると考えると,地震発生直前の剪断応力は,現在の剪断応力に平均的な応力降下量の6割を足したものであると仮定できる.同様に,動摩擦応力は,現在の剪断応力から平均的な応力降下量の4割を引いたものと仮定できることから,法線応力の時間変化は無視して,動摩擦係数を得た.また,静摩擦係数と動摩擦係数の差を定数と仮定(川方,私信)した.
断層面の境界条件には,Coulombの破壊基準とすべり弱化の摩擦構成則(Ida,1972;Andrews,1976)を仮定し,弾性体の運動方程式を差分法(Kase and Day,2006)で解くことによって,断層面上の破壊伝播過程を求めた.
摩擦係数の不均質分布を導入することで,走向方向の応力降下量を均質とした一方,静摩擦係数と動摩擦係数の差を一定としたことで,走向方向だけでなく,傾斜角方向にも,強度と応力降下量の比が不均質となるため,強度の不均質を強く反映した連動パターンとなる.適切な静摩擦係数と動摩擦係数の差の設定について検討するとともに,各区間の標準的な活動間隔と最新活動からの経過時間の2パラメータの感度解析もおこなう必要がある.
謝辞:本研究は,文部科学省委託事業「連動型地震の発生予測のための活断層調査研究」として実施されました.