日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (4) (オンラインポスター)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[SSS06-P15] 地震シナリオ構築におけるエネルギー収支に基づくスクリーニング手法の開発:中央構造線断層帯を例に

*浦田 優美1加瀬 祐子1 (1.産業技術総合研究所)

断層の連動性評価や地震シナリオの作成には、動力学的破壊伝播シミュレーションが有効である。しかし、応力場や摩擦パラメータの不確定性が大きく、検討すべきパラメータの組み合わせが膨大になるため、動力学的破壊伝播シミュレーションの計算機負荷は高い。本研究では、動的破壊シミュレーションを行う前に大地震になり得るパラメータの組み合わせを絞り込むためのスクリーニング手法として、Noda et al. (2021, JGR)によるエネルギー収支法を使うことを提案する。Noda et al. (2021)は、正のresidual energy (ER)が地震発生の必要条件であるとして、起こり得るすべりモデルを絞り込んだ。ここで、ERは断層すべりによって解放されるエネルギーと消費されるエネルギーの差であり、静的すべり分布と摩擦構成則から計算できる。本研究では、中央構造線断層帯(MTL)の讃岐山脈南縁東部区間、同西部区間、石鎚山脈北縁区間、同西部区間を対象とする。

まず、ERの正負が、文科省・産総研(2021)および加瀬・浦田(2021, SSJ)による動的破壊シミュレーション結果と整合するかを調べた。ERの計算では、動的破壊計算と同じ応力降下量、摩擦則を仮定した。Nikkhoo & Walter (2015, GJI)の解を用い、動的破壊計算で破壊の広がった断層セグメントでの静的すべり分布を求めた。応力降下量、摩擦則、破壊開始点の異なる48ケースを検討した。動的破壊伝播計算で破壊が広がった断層セグメントでのERは、ほとんどのケースで正で、エネルギー収支法による予測が動的破壊シミュレーション結果と整合することがわかった。

次に、動的破壊計算でMTLの一部だけに破壊が伝播したケースで、それより広いすべり域を仮定した場合のERを調べた。Noda et al. (2021)から予想される通り、広いすべり域でERが正になるケースと負になるケースがあった。ERが負になるケースでは、エネルギー収支法により複数セグメントでの連動地震発生の可能性を棄却できるが、そのようなケースは多くない。一方、ERが正になるケースでは、エネルギー収支法によって複数セグメントの連動の可能性を棄却することができない。そのようなケースの多くでは、動的破壊計算で破壊停止したセグメントに隣接するセグメントでの静的すべりがほぼ0であるため、その隣接するセグメントがすべり域全体のERに影響しないためと考えられる。

そこで次に、仮定するすべり域の増大とともに静的すべり分布から求めた地震モーメントM0がどう変化するかを調べた。すべり域が増えるにも関わらずM0が増えないケースがあった。そのようなケースでは、静的すべりの計算により地震規模の上限を制約することができると言える。

ERとM0を使うことで、それぞれ8ケースずつ、合計1/3のパラメータで、連動する断層区間や地震規模の上限を制約することができた。動的破壊計算を行う前のスクリーニング手法として活用できることが期待される。

謝辞:本研究は、文部科学省委託事業「連動型地震の発生予測のための活断層調査研究」として実施されました。