日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS07] 地震波伝播:理論と応用

2023年5月21日(日) 09:00 〜 10:15 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:澤崎 郁(防災科学技術研究所)、西田 究(東京大学地震研究所)、岡本 京祐(産業技術総合研究所)、加藤 政史(株式会社地球科学総合研究所)、座長:中山 雅之(立命館大学)、土井 一生(京都大学防災研究所)

09:30 〜 09:45

[SSS07-03] 河川流が引き起こす振動のパワースペクトルの特徴

*澤崎 郁1P.C. Shakti1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:河川流、地震計ノイズ、Hi-net、パワースペクトル

地震計では地震以外にも自然現象や社会活動を原因とする様々な振動が観測される。河川流が引き起こす振動はその一つであり、特に上流域では流れが速いため振動が強く励起され、地震計でも明瞭に捉えられる。この性質を利用して、上流域において遠隔から流況観測を行うために地震計記録を利用することが提案されている(P.C. and Sawazaki, 2021)。一方で、地震計記録を水位や流量などの流況に関する情報に変換するためには、これらの物理量間の関係性を明らかにする必要がある。特に、振動のパワースペクトルは河川振動の励起メカニズムを考察するのに役立つ。本研究では、河川振動を強く反映するHi-net観測点を対象に、それらの観測点における河川振動のパワースペクトルの特徴を調査し、考察を行った。
令和元年東日本台風が通過した2019年10月10日から17日までの期間を対象に、Hi-net238点における上下動記録を解析に用いた。まず、各Hi-net記録について、時間と周波数領域でそれぞれ2分と0.2Hz間隔でパワースペクトル密度を計算した。次に、地震などによる過渡的な振動と観測点毎に固有の単色振動を除去するため、10分×1Hz幅の時間―周波数窓においてパワースペクトル密度が最小となるグリッドの値を計算した。海洋波浪による脈動の影響が少ない2Hz以上を対象に、2-4Hz、4-8Hz、8-16Hz、16-32Hzの周波数帯域についてそれぞれ1時間毎の振動パワーを計算した。
続いて、各Hi-net観測点とHi-net観測点が所在する流域内の河川水位観測点とのペアを組み、水位Hと振動パワーWの間に
H=A(W-W0)b+H0 (W>W0)
H=H0 (W<W0)
という関係式を仮定し、最小2乗法によりAbを推定した。W0H0は洪水前の静穏時における振動パワーと水位であり、これらの量は台風上陸前の10月10日の平均雑微動パワーと平均水位より求めた。計算水位と観測水位の一致度の評価にはNash-Sutcliffe指標(NSE: Nash and Sutcliffe, 1970)を用いた。
解析の結果、4つの周波数帯域の全てにおいてNSEが0.8以上となる水文観測点が少なくとも1か所以上存在するHi-net観測点は21点存在した。水文学においてはNSEが0.6以上あれば水位の再現性が概ね良いと評価される。したがってこれらの観測点では全ての周波数帯においてHi-net記録が水位を良く再現できており、観測された振動成分のほとんどが河川流由来であると考えられる。これらのHi-net観測点における洪水時のパワースペクトルの形状は、いくつかの例外を除き、低周波側で平坦で高周波側でべき乗則に従い減衰する
P(f)=P0/(1+(f/fc)n)
という式でおおむね説明できることが分かった。この式を2Hzから40Hzの範囲でフィッティングし、P0fcnの各パラメータをグリッドサーチにより推定したところ、fcP0の約-1/3乗に比例し、nは3程度の値をとる傾向が見られた。

謝辞:本研究は大成学術財団2020年度助成金および科研費基盤C(課題番号22K03742)の支援を受けています。